Rアール
□R(2)
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(ひゃ……な、なに?)
僕の存在に気づいたダリアさんは、ゆっくりこちらに近づいて来る。
「可愛い子……あなたね? すぐにわかっちゃったわ。リューク、なぜ紹介してくれないの」
「……マナだ」
嫌そうなリューク様の声で我に返り、僕は慌ててダリアさんの足元に腰を下ろした。
「マナ・アリウムです。挨拶が遅れて申し訳ありません」
「そう。仲良くしてね」
手を差し出されて、僕は一瞬戸惑ってしまう。
しかし待たせるわけにもいかず、その細く美しい手を取り、軽く口づけを落とした。
緊張に震えていたら、ダリアさんにクスッと笑われてしまい、僕はさらに顔を真っ赤にして俯いた。
本当は僕の頭上で、ダリアさんとリューク様の無言の睨み合いがあったとは知らず……。
「ガイが怒ってたわよ。リュークが美女を囲ってるって。でも、違ったのね」
「なんの話だ。ガイの戯言なんかに、いちいち耳を貸すな」
二人の会話が続く中、僕はただ一人で呆然としていた。
(ガイ王って、どこにでも出没してるんだ……)
遭遇したことのない僕って、以外に貴重なのかもしれない。
神出鬼没なイメージもあるし、いつ出くわしてしまうかわからない。
ダリアさんの余裕な態度に耐えられず、僕はそんなくだらないことを考えていたのだ。
細やかな昼食会の合間に、僕はついダリアさんのことを観察してしまっていた。
意外に化粧が薄い。それに、目立つ宝石類も身につけていないようだ。
観察してて気づいたことは、ダリアさんは大臣の娘だというのに、ほとんど自分を着飾っていないってことで、見て取れるのは、人差し指に嵌められた小さいルビーの指輪だけだ。
それだけ、自分に自信がある証拠だろう。
「どうかした?」
「いえっ、申し訳ありません……つい見惚れてしまって」
ダリアさんと目が合ってしまい、僕は慌てる。
ずっと観察してたことを、気づかれてしまったかもしれない。
「行儀悪いぞ」
「……すみません」
その上リューク様に叱られてしまい、本当に逃げ出したい気分だ。
「ふふ、ありがとう。嬉しいわ」
この人には敵わない。敵うと思っていたほど馬鹿ではないが、優美に微笑む彼女の姿を見て、僕はそんなふうに思ってしまったのだ。
そんなこんなで、短いようで、すごく長く感じた昼食会は無事に終了したの。しかし……。
「後で、この子貸してちょうだい」
と、ダリアさんがリューク様に向かって放った一言で、その場が一瞬凍りついたのだった。
「失礼します」
渋い顔をしていたリューク様に許可をもらい、ダリアさんのために用意された部屋を訪れた。
「遠慮せず、座って」
「……はい」
部屋はダリアさんに合わせて華やかに彩られ、薔薇を中心に色とりどりの花が飾られていた。
「あの、用件はなんでしょうか?」
椅子に腰かけると、ダリアさんの真意を確かめるように問掛けた。
「そう焦らないで。あなた……マナ君に興味があっただけだから」
「はぁ……あっ、僕がやりますから」
紅茶を入れようとするダリアさんに、慌てて立ち上がり、僕がその役目を果たした。
「私もそれくらいできるわよ。でも美味しい……リュークが気に入るはずね」
「いえ」
まったく掴みどころのない人だ。
でも、紅茶を飲みながら僕に向ける目線は、今までとは違い、冷たいものに感じられた。
「リュークが私との婚約を解消してまで、マナ君に執着する理由ってなにかしら?」
「……っ」
やっと本題に入ったのだと、僕は思った。ダリアさんの瞳は、もう笑っていない。
「僕は……無関係だと思いますが」
その瞳に怯えながら、僕は真実を話す。リューク様は、僕のために婚約を解消したわけじゃないから。