Rアール
□R(2)
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11話.美女と指輪
僕は心臓をバクバクさせながら、ある人の訪れを待っていた。
それは、今朝の出来事まで遡る。
「━━ダリアが来る」
「えっ……」
リューク様に突然言われた、その一言に僕は衝撃を受けて、固まってしまった。
「お前も気にしていたみたいだから、会いたければ会っていい」
「そう言われても……」
確かにリューク様の元婚約者であるダリアさんのことが今でも気になっていた。
それに彼女は、リューク様の兄のセダイン様の想い人でもあるから。
「あいつは細かいことにうるさい女だから、くれぐれもヘマはするなよ」
「それは承知していますが。僕は……」
どう考えても、冷静にダリアさんと向き合える自信はないい。
それに、また身分の違いも考えずに、リューク様のことで嫉妬してしまいそうだ。
大体にして、リューク様はなぜ僕を彼女に会わせようとするのだろう。
「自分の目で確かめればいい。お前とダリアが似ているかどうかをな」
リューク様は前に言った僕の失言をまだ忘れてくれてなかったのだ。
意地が悪い。というより、けっこう根に持つタイプらしい。
傲慢に見下ろすリューク様に見えないように、僕はこっそりめ息をついた。
それが今朝の話で、現在僕は、ダリアさんが来るのに向けて、準備をしていた。
しかし、どうにも手が進まない。
「マナちゃ〜ん、聞いたわよ。恋敵が来るんだって? 頑張ってよ!」
「ニナさん……」
ニナさんも手伝いに来てくれたのだが、今の僕には不安を増幅させる存在でしかない。
あまり余計なことはしてほしくないのだが、僕がそれを言えるわけがない。
「ニナさんは、ダリアさんと会ったことがあるんですか?」
「うん! 素敵な人よ。勝ち気で、男に媚びてなさそうなところが最高! あっ……ゴメン。私はマナちゃんの味方だからね!」
言うだけ言うと、ニナさんは落ち込む僕を一人残し、どこかに行ってしまった。
今更『やっぱり会いたくない』なんて言えないし。ため息を洩らす僕の後ろに、またまた誰かが近づいてきた。
「マナ君、なんか緊張してるね〜」
「……ルイスさん?」
ルイスさんまでもが登場して、僕は妙な気分になってくる。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。彼女気は強いけど、悪い人じゃないからね」
「はい……」
ルイスさんもそれだけ言うと、ニナさん同様すぐに去って行った。
みんな僕を気遣ってくれてるみたいだけど、正直ちょっと迷惑だ。
「ダリア様が御着きになりました」
「あっ……」
セバスさんの言葉で、やっと落ち着き始めていた僕は、再び身体を固くしてしまった。
(どうしよう……リューク様は僕のことをずっと無視して、なにも言ってくれないし……)
緊張で手に汗が滲んでくる。
「御機嫌よう」
どよめきと、憧れの込められた歓声が、城中に沸き上がる。
(あっ……)
噂以上の女性だった。
映像で視るより華やかで、よく思えない立場の僕でさえ、その美貌に立ち竦んでしまうほど。
(誰だよっ! こんな人に似てるとか言った人)
恥ずかしい思い上がりに、僕はこっそりセダイン様を責めた。
「久しぶりだな」
「あら、嬉しくなさそうね?」
「わかっているなら、来るな」
やり取りは恐ろしいけど、そんなことはどうでもいいと思えるほど、二人が並ぶ姿はお似合いで……僕は嫉妬に目を眩ませた。
「ここではなんですから奥へどうぞ。ダリア様のためにセッティングした部屋がございます」
「セバスも相変わらずねぇ。もっと楽に話せないのかしら?」
「申し訳ございません」
その時、不意に振り返ったダリアさんと目が合ってしまい、僕は一気に顔を熱くした。