Rアール

□R(1)
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1話.少年と国王



 豊かな自然と、発展した都市とがバランスよく存在するリネイム王国。
 高台に立つ丘からは、街全体が見渡せるようになっている。初めてこの国を訪れた人間は、あまりの美しさに固唾を呑むことになるだろう。
 その中心に建つ、城の朝は意外に早い。毎朝起床は五時。とくにこの少年は、誰よりも早起きだった。

「えっ……」

 王の部屋――言われたことが理解できず、僕は固まっていた。
 僕は王の世話役兼補佐として仕える、マナ・アリウム。今年で十七歳になる。
 リューク陛下が王になって間もない頃から仕えていて、今年でもう五年だ。
 まあ、補佐役と言っても、最近ついでみたいに与えられたものなのだけれど。

「――おい」

 そんなことを考えていたら、頭の上から不機嫌な声が降ってきた。

「聞こえなかったか? 何度も同じことを言わせるな」

 そう言って、冷酷な瞳で見下ろしてるのは、紛れもなく我らの国王リューク陛下だ。
 今日も黒ずくめの格好で、威圧的な空気を纏っている。

「いえ、聞こえております……でもっ!」

 先ほど言われたことを思い出し、僕は言い淀んでしまう。
 正直怖いが、だからといってここで引くわけにもいかない。
 生まれながらの王だと言われるだけあって、そのわがままも半端なく、まさに暴君その者だ。
 国民誰もが、この漆黒の美しい髪と瞳に釘づけになり、中身にまで興味は及ばないだろう。

(あっ……)

 僕のその態度が気に障ったのか、不機嫌だった顔がますます険しくなっていく。
 僕は慣れてるにも関わらず、恐怖に肩を震わせてしまった。

「会合には出ないと言ってるんだ。どうしてこの俺が、わざわざ隣国まで足を運ばなければいけないんだ?」

 そう居丈高に言い放たれては、返す言葉も見つからない。

「でも……もう、これで三度目ですよ? ジュネ王国の時ばかり、なにか理由があるんですか?」

 正確に言うと、今の国王になってからだ。
 ジュネの国王とは、年も近いし、幼馴染みだと聞いているが、なにか会いたくない理由でもあるのだろうか。

「それじゃあ、僕だけでも行きます」

 さすがに毎度行かないとなると、相手国に不審に思われてしまう。
 リネイムの悪い噂が立たぬよう、陛下が嫌なら自分だけでも……と、つい口にしてしまった。
 ――地雷を踏んでしまったとも気づかずに。

「その必要はない」

 さらに低くなった声色で自分の失言に気づいたが、すでに手遅れだと悟った。

「跪け」

「――はい」

 次の行動を予想し、僕は右膝を立てると、陛下の足元に静かに腰を下ろした。

「お前は俺のものだ」

 立てた膝に陛下が左足を置き、冷酷な眼差しで僕を見下ろす。

(……っ、始まる)

 これから始まることを想像するだけで、僕は小刻みに震えてしまう。

「お前のすべては、頭から爪先まで……髪一筋までも、俺のために存在する。俺のために生き、そして死ね。勝手を言うことは許さない」

「はい。仰せのままに」

 そして僕は、いつものように陛下の足元に唇を寄せた。
 見えないように、陰で顔を歪ませながら――。





 自室に戻った途端、僕は床に蹲った。
 いつもこうだ。白くなった手で、震える頼りなく細い身体をきつく抱きしめる。
 繰り返される奴隷に放つような言葉や声に、決して慣れることはなく、僕の胸はただ痛むばかりだ。
 
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