Do you〜?
□5話
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【筋肉強化トレーニング】
Do you hurt?
その声は優しく穏やかなものだった。
May I touch you?
もちろん、オレの答えはNOだ。
そんなのあたりまえだろ!
白いカーテンで隔離された空間で、オレは怒りに震える拳をきつく握りしめていた。
現在オレは、連れてこられた保健室のベッドの上に寝かされている。
養護教諭が不在で、不本意ながら先程まであいつに足の手当てをされていたのだ。
当然抵抗したが、やすやすと取り押さえられ、強引に押しきられたんだからしょうがない。
屈辱感と怒りで、オレの顔は真っ赤に染まっていた。
(あの野郎……)
思い出すだけで腸が煮え返ってくる。
オレの足首に包帯を巻きながら、あいつは……
まるで傷を癒やすように、足首と爪先にくちづけをしてきたのだ。
変態だとわかっていたはずなのに、油断した。
オレより痛そうに歪む顔に、冷静な判断力を奪われた。
(だからなんだよ?)
そんなの、オレが気にすることなんてない。
オレが気にするようなことじゃない。
だって……
あいつは、ただの変態野郎なんだから。
あの日のことをいくら忘れようとしても、それは容易なことではなかった。
あんな衝撃的な事件、忘れろったって無理な話なんだよ。
せっかく忘れてやろうとしてんのに、そっちから近づいてきたんだぞ?
オレは悪くない。
あのときだって、オレはちゃんと自分の意思をあいつに伝えたはずだ。
春休み中のある晩、コンビニに行った帰り道、オレは変質者に出くわした。
ちなみにそれはあいつのことだ。
あのときはすぐそこまでだからと、黒のカラーコンタクトも黒縁の眼鏡も、本来の自分を隠すアイテムはなにもつけてなかった。
顔を隠すために伸ばされた長い前髪は、母親のヘアピンで留めて額を出していた。
『ハァ、ハァ……』
その額に息がかかるほどの至近距離で、男が呼吸を乱していた。
ひとの耳元でハァハァさせてんじゃねえよ、変態くそ野郎!
『どうして君は逃げるんだ?』
逃げたオレは、追いかけてきたあいつに捕まってしまったんだ。
オレに追いつけるやつがいるとは思わなくて、信じられない気持ちでいっぱいだった。
正直かなり混乱した。
パニックだった。
それでも果敢に挑むように、オレは恐怖で怯える瞳を懸命に隠して、変態野郎を睨みつけてやった。