Do you〜?

9話
3ページ/4ページ

 






 翌日――オレはせっかくの休日だというのに、早起きして念入りに家中の戸締まりをして回っていた。




「母さん、今日うちにだれか来てもオレはいないって言って」




「いいけど、あなたを訪ねてくるひとなんているの? 友達もいないみたいじゃない」




「友達とかじゃない。ただのストーカーだから、絶対に家に入れたりしないでよ」




「またなの? あんなへんてこりんな格好してるのにね……」




 自覚してるんだから、そんな残念そうな顔して息子を見るなよ。



 確かに友達はやっとできた筒井だけで、しかもそれすら失おうとしてるけど、オレにはもっと大事なことがあるんだよ。



 アイツカラ逃ゲナクチャイケナインダ……




(そうだ、カーテンも閉めておこう)




 リビングのカーテンを閉めようとしたオレは、窓の外に目を向けて震撼した。




 ぎゃあぁぁぁぁあっ!




「乃亜、なに騒いでんのよ」




 だだだだだって外になんかいるんだ!



 デッデーンと、日本ではまずお目にかかる機会がほとんどないようなリムジン。



 それが、うちの前に停まってんだよ!




「あら……なにかしら? 困ったわね。これじゃあ他の車が通れないじゃない」




 母親のその台詞で、オレはしかたなく外に出る羽目になってしまった。




「おまえは、なにしてやがんだよ!」




「Noah!」




 オレに気づいた変態野郎は、運転手の制止も聞かず高級車から飛び出してきた。



 白のタキシード。なぜか薔薇の花束を抱えている。



 まるでオレのお祝いにやって来たやつみたいじゃないか。
 



「君を迎えに来たんだ。少し早いと思ったから、外で待たせてもらっていたよ」




「はあっ!?」




 まだ午前中だボケ! って、そういう問題ではない。




「予定がないのなら、もう行こうか。さあ、車に乗って」




「乗るかっ! てめーはさっきから、なにふざけたこと言ってんだよ!」




「約束したじゃないか。僕は君との約束を破るようなことはしないよ。そう、どんな小さな約束だってね」




 約束なんてしてねえよ!



 オレが猫だったら、毛を逆立ててシャーッと威嚇しているところだというのに、いかれ野郎は構わず距離を縮めてくる。



 そして蕩けるような笑みを向けてくるのだ。




「今日の君はNaturalでとても可愛いね。休みに君に会えるなんて、僕はHappyだよ」




「うわっ! 触んじゃねえよ! てめーちきしょう、このやろー!」




 変態に抱きつかれそうになって、オレは慌てて飛び退く。



 休みにわざわざ変装なんてしないし、自然体なのは当然だ。



 だけど、こいつってあんまオレの外見気にしないよな。下手に騒がれるのもやだけど。



 にしても、こいつは本当に懲りるということを知らない。



 オレがどんだけ嫌っていようが、いくら罵詈雑言を投げつけようが、平然と自分の感情を押しつけてくるのだ。



 ある意味、起き上がり小法師よりすごいよ。




「ほら、遠慮しなくていいからおいで。ところで君、あんな乱暴な言葉遣いはしてはいけないよ。日本語は正しく、ね」




「!」




 どの口が……



 固まってるうちにオレは小脇に抱えられて、車内に無理やり押し込まれてしまった。




 ぎゃーっ! 拉致られた! 誘拐だーっ!




 助けておかーさーん!




「君のお母様には、うちの人間がきちんと説明しているから問題ないさ」




 それ以前の問題が山積みなんだが。










 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ