Do you〜?
□9話
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翌日――オレはせっかくの休日だというのに、早起きして念入りに家中の戸締まりをして回っていた。
「母さん、今日うちにだれか来てもオレはいないって言って」
「いいけど、あなたを訪ねてくるひとなんているの? 友達もいないみたいじゃない」
「友達とかじゃない。ただのストーカーだから、絶対に家に入れたりしないでよ」
「またなの? あんなへんてこりんな格好してるのにね……」
自覚してるんだから、そんな残念そうな顔して息子を見るなよ。
確かに友達はやっとできた筒井だけで、しかもそれすら失おうとしてるけど、オレにはもっと大事なことがあるんだよ。
アイツカラ逃ゲナクチャイケナインダ……
(そうだ、カーテンも閉めておこう)
リビングのカーテンを閉めようとしたオレは、窓の外に目を向けて震撼した。
ぎゃあぁぁぁぁあっ!
「乃亜、なに騒いでんのよ」
だだだだだって外になんかいるんだ!
デッデーンと、日本ではまずお目にかかる機会がほとんどないようなリムジン。
それが、うちの前に停まってんだよ!
「あら……なにかしら? 困ったわね。これじゃあ他の車が通れないじゃない」
母親のその台詞で、オレはしかたなく外に出る羽目になってしまった。
「おまえは、なにしてやがんだよ!」
「Noah!」
オレに気づいた変態野郎は、運転手の制止も聞かず高級車から飛び出してきた。
白のタキシード。なぜか薔薇の花束を抱えている。
まるでオレのお祝いにやって来たやつみたいじゃないか。
「君を迎えに来たんだ。少し早いと思ったから、外で待たせてもらっていたよ」
「はあっ!?」
まだ午前中だボケ! って、そういう問題ではない。
「予定がないのなら、もう行こうか。さあ、車に乗って」
「乗るかっ! てめーはさっきから、なにふざけたこと言ってんだよ!」
「約束したじゃないか。僕は君との約束を破るようなことはしないよ。そう、どんな小さな約束だってね」
約束なんてしてねえよ!
オレが猫だったら、毛を逆立ててシャーッと威嚇しているところだというのに、いかれ野郎は構わず距離を縮めてくる。
そして蕩けるような笑みを向けてくるのだ。
「今日の君はNaturalでとても可愛いね。休みに君に会えるなんて、僕はHappyだよ」
「うわっ! 触んじゃねえよ! てめーちきしょう、このやろー!」
変態に抱きつかれそうになって、オレは慌てて飛び退く。
休みにわざわざ変装なんてしないし、自然体なのは当然だ。
だけど、こいつってあんまオレの外見気にしないよな。下手に騒がれるのもやだけど。
にしても、こいつは本当に懲りるということを知らない。
オレがどんだけ嫌っていようが、いくら罵詈雑言を投げつけようが、平然と自分の感情を押しつけてくるのだ。
ある意味、起き上がり小法師よりすごいよ。
「ほら、遠慮しなくていいからおいで。ところで君、あんな乱暴な言葉遣いはしてはいけないよ。日本語は正しく、ね」
「!」
どの口が……
固まってるうちにオレは小脇に抱えられて、車内に無理やり押し込まれてしまった。
ぎゃーっ! 拉致られた! 誘拐だーっ!
助けておかーさーん!
「君のお母様には、うちの人間がきちんと説明しているから問題ないさ」
それ以前の問題が山積みなんだが。