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□恋の法則
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なんだろう。なにかがおかしい。いや、なんか違う。だから違うって!
繰り返し否定してみても、周りはそれを受け入れてくれない。どうせ外見で判断されてしまう。そんなの、とっくに諦めたことだ。
「いやっ、やめてくださいっ! 離して!」
「可愛い顔して気が強いなぁ、姫は」
なんと悲惨なことに、昼寝してて起きたら、面倒な場面に立ち会ってしまった。
いや、俺はただ屋上で昼寝してただけだって。ヒーローじゃないから、助ける気もないし。
って、ここ男子校。姫がいるはずナイナイ。
「あっ――助けてっ!」
ナイナイと首を横に振っていたら“姫”が俺のほうに駆け寄ってきた。
つくづく運が悪い。ぼけーっとしてないで、さっさと立ち去るべきだった。
俺に気づいた二年と思える先輩が、すごい勢いでガンを飛ばしてくる。
「なんだ、お前?……ああ、お前が王子ってわけか」
王子? お決まりなので周りをキョロキョロ見渡してみる。俺と姫しかいない。
一応自分を指差してみたら、二人に同時に頷かれた。
つまり、この状況で王子ってのは俺になっちゃうわけね。ガックシ。
「なに黙ってんだよ!」
いや、あんたに答える義務なんてないから。
「…………」
とか思いながら振り返ってみれば、俺にしがみついて震える姫。どうやら、ここをどうにかしなければ俺は解放されないらしい。
とりあえず、先輩と見つめ合ってみた。
この先輩、けっこう身長あるな。筋肉もついてるし、顔もそこそこイケてる。姫はなにが不満なんだ? もったいない。
「……ちっ、今日のところは諦めてやるよ」
まだなにもしてないのに、何故か先に音を上げたのは先輩だった。
はぁ……行っちゃうんだ? もうちょっと見つめ合ってたかったのに。
「すごい迫力っ! さすが穂積駿君っ! 助けてくれてありがとう」
先輩の背中を見送っていたら、姫がキャッキャッとはしゃぎだした。
いや、べつに助けたわけじゃないし。目つきが悪いとはよく言われるけど。
姫は俺より10センチ以上目線が低い。162センチってとこか。それに目が大きくて顔は女の子みたいに可愛い。確かに男子校じゃあ姫だわな。
「なんで俺の名前知ってんだ?」
しかもフルネームで。
「有名だよー。あっ、僕は成瀬由宇。二組だよ」
なにが有名なんだと思いつつ、俺は姫こと、成瀬を見下ろす。
マジちっちゃい。抱きしめたら壊れちまいそうだ。
成瀬はうるうるした瞳で俺を見上げてくる。
「穂積君……ずっと、気になってたんだ」
な、なんだ? なんかピンク色した甘いムードが見えるぞ。
どうぞ俺のことはお気になさらずー。
「じゃあ……」
ヤバいと感じて俺は後退ろうとするが、その前にシャツの裾をギュッと握られて動けなくなる。
来るか。来るか。と構えていたら、やっぱり来た。
「好きですっ! 僕と付き合ってください!」
「っ!」
しつこく言います。ここ男子校。俺、男。姫でも、男。
ああ、そういえば、入学以来こんなことが度々あったっけ。
『カレシになってください!』
『僕を好きにして!』
そんなこと言われてもーって感じだよな。それも、みんなちっちゃくて可愛い顔した男の子たちに。
だから違うんだよ。そうじゃないんだって。
「返事はいつでもいいから。待ってるね」
待たれても困る。俺、男なんて興味ないし。
どいつもこいつもなんなんだ? 男子校に入ったら、男を好きになんなきゃいけないって法律でもあんのか?
いや、こいつだけは生粋の女好きだったか。こいつのナンパに、俺はいつも付き合わされているんだ。
こいつ曰わく、俺の顔は『メンズ雑誌のモデルでもやってそうなイケメン』らしいから。
つっても、女なんて煩わしいだけだから興味ないけど。
「つまり、姫に告られたわけか?」
「そうなんだ」
こいつ、クラスメートで友人である堀田明に、今し方起きたことを相談したら、思いっきり大きなため息をつかれた。
昼休みはそろそろ終わるっていうのに、クラスの半分の生徒も戻ってきてない、静かな教室。
まあ、聞かれたいことじゃないから都合はいいけど。
「お前、これで全校生徒から恨まれんぞ」
「なんで?」
「あたりまえだろ」
せっかく説明を受けているところだったのに、急に教室内が騒がしくなって、話を中断させられる。
騒ぎの中心であるドアのほうを見れば、背の高い男がなにかを叫んでいた。
「穂積っ! 穂積駿はどこだっ!」
まるで道場破りにでも来たかのような気迫に、俺は息を呑む。
ん? 穂積駿って俺じゃん。
「さっそく来たな」
「なに、あいつ」
「第一の障害だ。さしずめあれはナイトってとこか。王子と姫は、簡単には結ばれないんだよ」
「はあ?」
まったくもって意味が分からん。王子が俺で、姫が成瀬だろ? 結ばれたくなんてねえし。
どちらかと言えば、俺は……。
「おい、穂積だな? ちょっと来い」
「は?」
見上げた先には、さっきまでドアで叫んでいた男がいた。
バスケ部かな? 俺より10センチ近く高いな。なんかいいな。胸板とか厚そう。触ってみたいかも。