捧ゲ物

□月光
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「先生!」


子供三人と大人一人。
夜に田の中へと入っていく。


「あまりはしゃぎすぎると足をとられてしまいますよ?」
「はーい」


吉田松陽。
それが俺たちの師。
こんなにも心を開ける人はいない。
こんなにも一緒にはしゃぎ回れる人はいない。
こんなにも尊敬できる人はいない。
こんなにも素晴らしい人はいない。

俺たちが唯一信頼していた人。

それが先生。


「先生、この稲みたいなの貰ってもいいですか?」
「ええ。一年の中でもこの時期くらいしか見られませんし、持ち帰って飾りましょう」


こんなにも優しい人はいない。
こんなにも温かい人はいない。


満月の夜、俺たちは先生と暖かな時間を過ごした。


また先生と一緒に月の下を歩きたい。

でも、それは叶わぬ夢。


美しい姿と光と影。
それまで好きだった満月は。
この瞬間。酷く醜い姿をした、大嫌いな月になった。






「小太郎、晋介。おやすみなさい」
「おやすみなさい、先生」
「おやすみ」


先生はヅラと高杉を家に送ってから寺子屋へと向かう。


「銀時。手、繋ぎましょうか」


先生は優しく微笑むと、そっと手を差し出してきた。
俺は躊躇なくその手に自らの手を差し出す。


「銀時、素直になりましたね」


先生は嬉しそうに話す。
俺は先生と出会う前、戦場跡地でふらふらと彷徨っていた。
行く当てはない。
帰る場所もない。
自分を抱きしめてくれる人はいない。
自分を愛してくれる人もいない。


( 人って、何だ...? )


そんな疑問を持ちながら。
死人の懐のお結びや帯刀されている刀を手にとりながら。
俺は何時までも彷徨っていた。

そんな俺を救ってくれたのが先生。

人というものを教えてくれた。
俺にはなかった感情、言葉を教えてくれた。
愛というものを教えてくれた。
居場所をくれた。
帰る場所を作ってくれた。
名前をくれた。

俺にとっては、命を掛けてでも護りたい人だった。




なのに-------------------------...






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