短編

□此れは禁忌とこそ承はれ。
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一定のリズムで電子音が鳴り響く。
元より白い肌は、更に其の白さを際立たせている。

大江戸病院の集中治療室にて、一人の男がベッドに横たわっていた。
幾つものコードに繋がれて、呼吸器を付け、点滴まで行われている。
治療室には何人もの医者と看護婦が行きかっている。
損な様子を、唯呆然と幾人の大人や子供は見詰めていた。


「たまさん。お登勢さんは未だ来ないんですか」


誰も何も話さない緊張感の張り詰めた沈黙を、一人の少年は捻り出す様な低いトーンで破った。


「どうやらお登勢様は病院に足を運ばれない様です」

「何で...ッ」

「信じてるから」


たまは遮る様にして言葉を強く発した。


「お登勢様は銀時様を信じてるから。私も一度来る様促したんですが、銀時様は絶対に死なないから。此処で死ぬ様なたまでは無い。だからアイツが帰って来る迄、家賃を払う迄此処で待ってる。添う云って、今もスナックに居ます」


たまの言葉に、その場に居た皆が俯く。
其処へ、全く別の声が放り込まれる。


「あの、ご家族の方はいらっしゃいますか?」


集中治療室から出てきた医者の声。
俯いていた皆の顔は一斉に向けられ、医者へと駆け寄る。


「銀ちゃんは、銀ちゃんは無事アルか!?」

「落ち着いて下さい!ちゃんと説明しますから!」

「こんな時にどうやって落ち着くアルか!!お前本当に医者かヨ!!」

「神楽ちゃん!」


興奮摺る神楽を止めたのは妙だった。
だが妙も、とても悲しそうな目をしていた。


「此処で私達が騒いでも、銀さんは直ぐに善くならないわ。だから、現実を受け止めるべきだと思うのよ」


妙の言葉に、又皆俯く。


「坂田さんは今非常に危険な状態です。暴行を受けた際の傷は致命的なものではありませんので大丈夫です。ですが、右肩をとても深く斬られており、さらに急所を貫かれている為、出血も酷い状態です。意識は未だ戻るか判りません。要するに、意識不明の重体といった所です。今も尚全力を尽くしております。治療が終わり次第、一言も声を発さないという条件が呑める楢、彼の側にでも居てあげて下さい」


医者はそれだけ云うと駆け足で治療室へと戻って行った。


「兎に角今は、銀時を信じよう。アイツが死ぬたまか。アイツをこんなんんした奴をとッ捕まえるのが先だ」

「近藤さん..」


近藤の言葉に、一同頷く。


「でもね、ゴリラ。彼方の命令でなんか動きたく無いのよ。私は一人で愛する銀さんをこんな目にした奴をぶち殺すわ」

「オイ、始末屋。それどういう事だよ!?」

「だれもゴリラに従わないわ。結局動物は厭なのよ。私的にせめて人間が善い訳。だからアンタはとっとと動物園に帰りなさいよ!」

「何だとコラァァァァ!!!」

「何よ、殺る気?止めときなさい。私は動物に殺される程やわじゃないわよ!!」


こんなシリアスな雰囲気を壊した馬鹿共を放って、他の皆は犯人を捜すために動き出した。


「うるせェェェェェ!!此処は病院なんだよ!!患者の迷惑なんだよ!!」

「厭、キミの方が煩いよ」

「あ、すんません」


医者とナース長は僅かながら懐かしいやり取りをしていた。






************






「副長ォォォォォォォォォォ!!!」


真選組屯所にて、山崎が廊下を駆けていた。


「何か出たか」

「はい!ですが、その...」


山崎の動揺を、土方は見逃さなかった。


「何が出た」

「...凄く云いづらいんですけど..」

「善いから云え」

「あの、旦那の腹部に刺さっていた刀の柄の部分を鑑識回した所、柄のところからくっきり手の形に指紋が取れました。...旦那の指紋が」


山崎は何を云ってやがる。
そんな驚愕の顔を土方はしている。


「冗談よしやがれ。蒙一回鑑識に回せ」

「副長。鑑識の方を何とか説得して刃に付いた血痕や柄の部分や鞘に至るまで隅から隅まで鑑識に回しました。恐らく十回以上は。ですが、何回やろうと結果は変わりませんでした」


可笑しい。
誰もが思った事だろう。
なんせ、銀時は何者かの手によって深手を負わされたのだから。
目撃者の証言は、目の前で銀髪の男が何か変な事を云って、銀髪の男が頭を抱えて蹲り、途端に男が斬りかかって、其の後数回殴られ蹴られ、最後に刀を刺された。
この証言を聞く限り、男は銀時の何かを知っている。
そして更に、目撃者が不審に思った点が一つ。此れは皆も驚いていた。



『銀髪の男も対峙していた男も、殆ど似たような声だった」』



明らかに怪しい。
声が途轍もなく似ていて、刀の柄の指紋が銀時の指紋と完全一致。
ありえない事。しかし、土方は一つの疑念を抱いていた。


「なァ、山崎。今回の事件、触れちゃいけねェもんかもしれねェ。ありえねェ噺だが、アイツはアイツ自身の手によって重症を負ったと見るのが妥当だ」


山崎は声を失い、唾を飲み込んだ。






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