短編

□True No.1
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True No.1 ターミナル跡地






激しくぶつかり合う音がターミナル上部から摺る。よく目を凝らせば、探し回っていたあの魘魅と、珍宝と名乗る男が戦闘している。
粗互角。
二人の戦闘に気が付いた新八と神楽はすぐさまその場へ向かう。
ぶつかり合う音が少しずつ大きくなる。

遠くの柱の影から気付かれぬ様に覗く。
見ると、優勢だった男が反撃されている。一瞬にして劣勢となる。


「あッ!」


思わず声を上げてしまう。
柱に思い切り額をぶつけられる男。血を流しながらよろめく。それから魘魅は男を蹴り飛ばす。
男は避ける事が出来ず、そのまま階段下の瓦礫へと転がる。
魘魅は錫杖を振り下ろす。
目を瞑る。厭な音が響いた。
恐る恐る目を開ける。其処には、胴体の中心部を貫かれて階段に座る魘魅。向かいには血まみれで立つ男。


「大丈夫みたいだね」

「ウン。! 静かに摺るアル。何か話してるヨ」


静かに二人を見詰める。
すると、階段に座る魘魅の方から聞き覚えのある、男と全く同じ声が摺る。
魘魅は声を発しながら顔を取り巻く呪符を取り除いていく。


「俺ぁ......お前が来るのをずっと待ってたのさ。世界が崩れていく音を聞きながら」


乾いた音を立て、呪符は魘魅の足元に落ちていく。
その場に居た銀時と新八と神楽の三人は凍りついた。
銀時は頭が混乱して声が発せ無いで居た。
新八と神楽にとっては、この五年間求め続けた人。
呪符の下から出てきたのは、首元に沢山の梵字の様なものを浮かばせている銀時の顔。


「ぎ..ちゃ、ん..」

「そんな...、嘘だ..ッ」


二人は、亡くなったとばかり思っていた大切な人が其処に居る、生きているという事実に嬉しさを覚えつつも、何故男と戦い、魘魅の格好をしているのかという事実に驚きを隠せなかった。


「俺を殺れんのは、俺しかいねえだろ。なぁ、銀時」


銀時の言葉に耳を疑う。
二人は男に目をやる。銀時になんて到底見えない。逸れに、銀時は其処に居る。
ずっとそんな事を頭の中で考え続ける。


「お前は......いったい」

「見た通りだ。俺はお前自身、五年後の、お前だよ...」

「お前が、俺の......未来の姿だと?」

「銀時...この世界を滅ぼしたのは、魘魅なんぞじゃねぇ。坂田銀時、お前なんだよ」

「俺が...?」

「この世界で起こったことは、俺が...厭、いずれお前が引き起こす事態なんだ。残念ながら、てめーが探してた魘魅の生き残りなんざ、この世界の何処にも存在しちゃいねぇ」


二人は、少しずつこの状況が呑めて来た様に見えた。銀時たちのやり取りに、必死で耳を傾けていた。


「確かに、十五年前、奴等は俺達の手によって潰えた。だが俺たちゃ肝心な奴を仕損じていたのさ...。一匹、この体にな」


銀時の言葉に、二人は驚愕を隠せなかった。
噺を聞いている内に二人の視線は珍宝の姿をしている銀時に注がれた。


「銀時、お前の体の中には、十五年前から、奴等の呪いが息づいている。世界を滅ぼす、ウイルスの苗が」


銀時の言葉に、珍宝の姿をした銀時は自分の両腕を見やる。


「俺達があの時斬った野郎は、唯の入れ物、魘魅の本体とは、奴等が操るナノマシンそのものだったんだ。奴は、その入れ物が壊れゆく時、俺たちの体に寄生し、十年にわたり、人間の遺伝子情報を喰らい、進化していた。そして、人間には対抗しねえウイルスを生成し、この体から、世界中に飛び立ったのさ」


肉眼では見えない、ナノマシンウイルスが自分の体から飛散し、この世界を侵食していくさまが、イメージとなって脳裏に浮かぶ。


「気付いたときにゃ、何もかも遅かった......。全てを悟った俺は、ウイルスに侵食されつつある自我を辛(かろ)うじで保ち、奴を−−−ウイルスを道連れにしようと腹を掻っ捌いた」


銀時の衝撃的な言葉に、二人は涙を零した。


「厭、掻っ捌こうとした、だな。それすらも遅かった。俺の体は、もう俺のもんじゃなくなっていたのさ。短刀を握り、てめーの体に突き立てようとしたが、ウイルスの意志がそれを阻んだんだ」


そして、銀時は自嘲の笑みを浮かべる。


「俺は死ぬ事も出来ず、自分を止める事も出来ず、生きる屍となった。てめーの手によって世界が滅んでいくのを眺めることしか出来なかった......。それが、奴等が俺たちにかけて呪い。己(おの)が手で滅んでいく世界を、ただ一人で見詰め続けることが、あの時俺達が背負った業だったんだ」

「それが...、呪い...」


珍宝の姿をした銀時は冷静にその事実を受け止めていた。
しかし、二人だけは悲しみに浸り、兎に角声を出さぬように静かに泣いていた。


「これでわかったろ。俺は世界を滅ぼした元凶たる存在。俺という存在を消すために、俺をこの世界に招待したのさ。目論見は成功だ。お前のおかげで、この世界の俺は此れで消える」


銀時の言葉に、二人はさらに大粒の涙を零していく。


「だが銀時−−−」


銀時は木刀で貫かれた胸に手を置き続ける。


「全てを知った今のお前なら......まだ何も終わっちゃいねえ事は判るはずだ」

「今の俺なら...」

「嗚呼。呪われた因果から俺たちを......世界を解放するためには何をすべきか......お前には蒙わかっている筈だ」


銀時の言葉と同時に、時間泥棒が動き出す。


「準備は整えておいた。あとのことは頼んだぜ。坂田銀時......俺を殺れんのは、俺しか、いねえ」


銀時は云い終わると、安心したかの様に一瞬笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。
眠ったのでは無く、事切れたという事は直ぐに判った。
二人は銀時が事切れる瞬間を泣く事を忘れて見ていた。
それから数秒空けて、珍宝の姿をした銀時が、銀時の肩に手を添えてゆっくりと木刀を引き抜いていった。
銀時は其れでも笑ったまま。本当に、蒙息をしていないのだと、確信した。
確信してから再び泣き出すのに、時間は掛からなかった。
木刀を腰に差し、珍宝の姿をした銀時は歩き出す。それから銀時の元に空かさず二人は駆け寄る。
銀時は階段の下で横にされていて、胸からは大量の血が溢れ出ている。


「ねぇ、銀ちゃん。嘘だよネ?ねぇ?」

「銀さん。お願いですから..、お願いだから返事をして下さいよ」


二人は銀時に抱きつき、大声で泣き叫ぶ。


「新八。銀ちゃんの最後の願い、私たちだってやるネ」

「勿論だよ。行こう、珍さん−−−厭、銀さんの所に!!」

「...銀ちゃん。必ず、必ず此処に又帰ってくるから。もう少し待ってるネ。今度はちゃんと、お墓の処で寝れるから。此れからは銀ちゃんが寂しくない様に、皆で毎日お墓参り行って、又前みたいに話すアル。だか、ら..ッ、もう少しだけ、待っててネ..ッ!」

二人は事切れた銀時の手を握り締め、大粒の涙を銀時の頬に落とす。
そして、その場を後に摺る。
目的は一つ。彼のやり残した仕事を摺る為に。






No.1 end

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書いてて思ったけど、銀さんが未来の銀さんを殺して白夜叉を殺して未来を救うのはいいけど、白夜叉を殺した瞬間、銀さんそのものがいなくなるんじゃないの?と、二回も映画を見て小説迄手元にあるのに理解が全く追いつかない管理人。

鬼燈


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