短編

□消え逝く灯火
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眩暈が摺る。


頭痛が摺る。


耳鳴りが摺る。


体が動かない。


目の前が大分霞んで来た。


喉元は鉄の味が摺る。


気付けば空は曇天。


暫くして雨が降る。


力が入らず、瞼が閉じない。


瞳に雨が当たる。


痛みは無い。


反射的に瞼を閉じたくなる。


閉じれない。


瞳に当たった雨が、


涙の様に目尻から零れる。


僅かに声が聞こえる。


其方へ眼をやれば、


見覚えのある面子。


新八や神楽や妙。


真選組や柳生一派。


月詠や猿飛。


よく見やれば、


ヅラ達も居る。


何か叫んでいる。


嗚呼。


煩い耳鳴りで聞こえない。


再び曇天に眼をやる。


視界に何か入る。


見慣れない男が立っている。


右手には短刀が。


嗚呼。


コイツは俺を殺すんだ。


俺は判っていたけど、


避けるつもりも、


逃げるつもりも、


逆にコイツを殺そうとも。


別に何とも思わない。


抵抗しようとも。


男が短刀を振り下ろす。


腹に刺さる感覚。


其れでも俺は抵抗しない。


男は俺の腹に、


何度も刀を突き立てる。


何度も


何度も


何度も


何度も


何度も


何度も


何度も


何度も


何度も


何度も


何度も。


刀が肉片を抉る感覚は有る。


なのに。


痛みなんかまるで無い。


俺は男にされるが儘。


満遍なく雲が広がる空。


其処を見詰めていれば、


視界に入るのは、


短刀を振り下ろし続ける男と、


飛び散る自らの肉片と血液。


徐々に徐々に、


鉄の味が濃くなって来た。


声は無い。


唯音も無く、


抉られる度に吐血摺る。


少し体が痙攣して来た。


何故。


別に痛みなんか無い。


なのに、


何故体は限界を迎えている。


別に善いんだよ。


こんな腐りきった世界なんざ。


いっその事、


此れを機に死んだって善い。


別に構やしない。


こんな処を彷徨って居たって、


苦しいだけじゃねェかよ。


耳鳴りが止む。


周りからは叫び声が摺る。


逃げてとか、


止めろとか。


そんな事云うなら、


お前等が来ればいい噺だろ。


何で誰も其処から動かない。


止めろって云うのは口先だけ。


結局本心は怖いとか、


誰かに助けを求めてる。


お前等本当に人間かよ。


ヅラは何か頑張ってるけど。


真選組に身柄を拘束されてる。


早く殺せよ。


何度も腹を抉ったって、


何も変わりゃしない。


男が大きく短刀を振り上げる。


此れでやっと、


死ねるのだろうか。


長かった。


早く、


終止符を打て。


腹なんかじゃなく、


ポンプを狙え。


添う摺れば、一撃だろ。


一瞬にして逝ける。


男が短刀を振り下ろす。


其の時、


ふと体の自由が戻った。


今更かよ。


でも、


痛覚は未だに無い。


まぁ善い。


自由を取り戻して、


俺は瞼を閉じる。


一瞬、


周りの叫び声が止んだ。


気のせいか。


未だ煩いだけ。


そして、


短刀は俺の心臓を捉える。


音はしなかった。


痛みも感じなかった。


涙も出なかった。


唯一出たのは、


体外へ排出される血液。


意識が遠のく。


視界は黒く染まっている。


耳には何の雑音も入らない。


雨音だけ。


痛覚は相変わらず。


無音の世界が近付く。


それでは、


また明日。



( 地獄で会いましょう。 )



end

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結局は死ネタを書いてみたかった。
何気に楽しス。でも、また笑えない。

鬼燈


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