異世界A

□黒い影の正体
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砕蜂を背負っている。これで二度目だ。前は彼女が高熱で意識がほとんど飛んでくれていたのでよかったものの、今回は意識ははっきりしている。密着している部分が熱い。さっきから俺の心臓はドキドキしっ放しだ。砕蜂に気づかれなければよいのだが。

水着だから肌の露出部分もお互いに多く、服を着ているときよりも、……リアルに密着感がある。……胸も当たる。頬っぺたなんて俺の背中に付けてるんじゃねぇっ! いつものお前らしくないことをしてくれるなっ! プールの傍のジャグジーで下ろしてくれ、というから、ほっとしたのも束の間、もう少し付き合え、と言う。ジャグジーに一緒に入るのか? カーっと身体中が熱くなってくる。

はっとして虎徹を探すと、プールの入口で大きな身体を精一杯隠すようにして、こちらの様子を窺っているのが見えた。と同時に、あいつは、そそくさと姿を消した。

だが、砕蜂がこんなことを言うのは絶対に何かある。さっきの様子は尋常ではなかったから。だから、ジャグジーの縁に腰掛けて、冷静になって訊いてみた。

「さっきは、どうしたんだ?」

すると、砕蜂はポツリポツリと話し始めた。

俺の背後に影のようなものが見え、それ自体は錯覚だったのかもしれないが、自分の幼い頃に見てそれきり封印していたかのような記憶が一気にフラッシュバックして、謂わばパニックのようになってしまった、というのだ。

「私が幼い頃に見たもの、兄を水底へと引きずり込んだもの、あれが、『虚(ホロウ)』というものだったのか?」

最後の方は、やはり感情が昂っていたのか、声が震えていた。
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