異世界A
□浦原商店
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子どもたちに続いて、
「只今戻りました。」
と言って、身の丈2m以上はある大男が帰ってきた。この人がさっき言っていた「テッサイ」さんか?
「おお、店長のお客さまですか。はじめてお目にかかります、握菱鉄裁と申します。ごゆるりとなさっていってくださいませ。」
(いや、ちょっと、この堅苦しい人を前には寛げないぞ…。)
「あ、ありがとうございます。」
「おお、店長っ! 今宵はお客さまも一緒に夕飯でもいかがですかな? 粗飯ではござりますが、このテッサイ、腕によりをかけて作りますぞ。」
「あ、いや、本当にわたくしたちは…」
「遠慮するな、砕蜂。この前の試合の助っ人の礼をまだしておらなんだ。このまま食べていけ。」
「いえっ、あの試合は私のせいで負けたようなものです。だから、そんな…。」
「そもそもお主が引き受けてくれなんだら、試合自体を棄権せねばならなかった。の? いいじゃろ?」
捨てられた仔犬や仔猫のような上目遣いの眼差しに、つい、
「は、はい…。」
と答えてしまった砕蜂を誰が責められようか?
こうして俺たちは浦原商店で夕飯をご馳走になることになった。あの子どもたちは、身寄りのない孤児を引き取ったのだそうだ。なんでも、一角の親父さんが、
「ウチにはもう一角がいるから、テメエにやる。」
と言ってきたそうだ。
「いや〜。あの時は参りましたよ。犬や猫じゃあるまいし。でも、アタシん家は広さだけはありますからねえ。何よりテッサイは料理が上手いから、まだ小さかったあの子たちの栄養管理にも、ウチのほうがいいってわけですよ。」
もっとも、後からテッサイさんにきいたところによると、一角の親父さんは口は悪いが、浦原さんは頭が良いし四楓院先生という後ろ楯もあるので子どもたちの教育上は浦原家のほうがよい、ということを、ものすごい変化球で頼んできたのだという。そして浦原さんも、すんなりとは言わなくても、一角の親父さんの意を汲んで、最終的には快く引き受けたのだそうだ。そのことをテッサイさんは見かけに似合わず、涙を流さんばかりに話してくれたのだった。
雨宿りをしていた俺たちを中に入れてくれたのも、単なる気まぐれではなく、人情味があってのことなのかもしれない。