異世界A

□夏服になれない理由
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校舎を出ると、かなり雨足が強くなっていた。傘は持っていたが、跳ねが上がって足元はすぐにびしょびしょになる。

ふと檜佐木を見ると、傘を私の傘に重なるようにさしかけてくれている。檜佐木のほうが背がうんと高いから、肩のあたりに私の傘の先が当たり、雨垂れで折角傘を差していても肩から先がびしょ濡れだ。反対側は私に傘を差しかけている分、もっと濡れているだろう。

「檜佐木、もっと離れて歩け。私の傘で貴様の肩が濡れている。」

「だって、お前体調が悪いんだろ。雨になんか濡れないほうがいいぜ。帰ったらすぐ身体拭いて着替えろよ。」

(どこまで世話焼きなんだ…。)

さすがに良心が疼いた。やはり嘘はいけない。正直に、少なくとも喘息というのが嘘だということくらいは言おう。

「檜佐木…。その…、あのっ、カーディガンを羽織っているのはだな。……この制服の開襟シャツが、どうもスースーしすぎて慣れないものだから…。」

「へ? なんだ、そんならそうとはっきり言えばいいのに。」

てっきり怒るかと思ったら、檜佐木は笑顔だ。余計にこちらは辛くなる。

(ええい、もう何もかも言ってしまえっ!)

「あと…、下に着ているものが透けるのも嫌だ。」

「あ…。」

おそるおそる見上げると、笑顔が凍りついて、今度は盛大に顔を赤くしていた。
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