異世界
□友だち
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その後、学校の図書室で集中できなかった分を取り戻そうと、私は駅前のコーヒー屋で1杯のコーヒーで粘りに粘って、とりあえずその日のノルマを達成した。
私は独り暮らしだから、夜遅くなっても誰にも叱られることはない。補導されそうになっても、鞄の中身の参考書や辞書を見せれば、信用してもらえる。
とりあえず、少しだけお腹を満たすものをコンビニで買って帰ろう。買い物をして会計を済ませ、お釣を受け取ろうとしたその時、聞き覚えのある声がした。
――檜佐木?
反射的に店を飛び出していた。
「お客さん、お釣、お釣〜っ!」
と呼び止める店員の声が聴こえたが、それどころではない。私は必死で走った。
足には自信があったが、生憎こちらは制服で、荷物もある。檜佐木との体格差や体力差では、到底敵わない。少し離れた公園のあたりで、ついに捕まってしまった。
「離せっ!」
そう言うのがやっとだったが、むこうも息を切らせていた。そして、息も絶え絶えで言った。
「嫌な、こった。とりあえず、俺の、話を、聞け、っつーの。」
(何でこんなになりながら、私に構う?)
「お前、なんで逃げるんだよ?」
最早、抵抗する気は失せていた。檜佐木が促すままに、公園のベンチに腰を下ろした。
「なあ、お前、俺がこの前図書室で言ったこと気にしてる?」
(え……。)
「あのさ。」
檜佐木は、頭をがしがしと掻きながら、視線をさ迷わせ、暫く言いあぐねていたようだが、そのうち決心がついたかのように私のほうに向き直ると、真剣な表情で言った。
「その……、『俺とばっかいると、変な誤解される』っつーのは、お前にとって不名誉なことになるんじゃないか、って思っただけだ。俺は……、ちっとも迷惑なんかじゃないぞっ!」
――心臓が止まるかと思うほどびっくりした。