異世界

□はじめての会話
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その日は、よりによって、ラットの解剖だった。(高校生にこんなことさせていいのか?)とも思ったが、いずれ医学部や薬学部などに進めば、嫌というほど解剖実験が待っている。

また、農業高校なら、もっとシビアな屠殺の実習もあるそうなので、このくらいは致し方ないのかもしれない。

俺たちは常に、何かの命を奪って生きているのだから。

女子のなかには、早くも泣き出すヤツが出てきた。涅先生は、

「何だね、このくらいで、まったく。情けないことだヨ。」

とブツブツ文句を言っていたが、俺はふと転校生がどうしているか気になり、そちらを見た。

すると、彼女は顔色ひとつ変えず、黙々と作業をしていた。あちこちからひそひそと、

「あいつ、すっげーな。」
「砕蜂さん、すごい。」

という声が聞こえてきた。

涅先生は、

「ほう。なかなかやるじゃないか。この実験で泣かなかった女子は久しぶりだヨ。解剖は初めてではないのかネ?」

(おいっ、女子を泣かすためにやってたのか?)

しかし彼女は、
「昔からしょっちゅう鶏を捌いていましたから、このくらいはなんとも。」

と涼しい顔で応えた。


とりあえず、心配はなさそうだ。彼女なら涅先生の授業にも付いていけるだろう。それにしても、今どき、鶏を自分で捌くって、どんな家庭環境だ? お国柄の違いだろうか。
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