異世界
□転校生
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彼女は、成績もかなりよく、何より運動神経が抜群だった。
この前も、女子の体育の授業で、走り高跳びをぶっちぎりで、――自分の背丈よりも高いバーを――易々とクリアしていた。
(へえ、やるじゃん、転校生。)
いつの間にか、俺の中では、彼女の呼び名は「蜂梢綾」でも「砕蜂」でもなく、「転校生」になっていた。
古典の授業で浮竹先生が、漢詩の訓読をさせるのに彼女を指名した。当然のようにスラスラと読む。
「砕蜂、君は中国語でも読めるかい?」
「ええ。」
「では、お願いしたいな。漢詩が韻をふんでいることを説明したいんだ。」
「分かりました。」
澄んだ中国語の響きと彼女の声に、クラスの全員が聞き惚れた。
浮竹先生も、
「さすがだな、砕蜂。」
と満足げだった。
ただ、「出る杭は打たれる」というのは世の常で、ある時、タチの悪い連中に休み時間に絡まれていた。止めに入ろうかとした途端、彼女は連中に外に出るよう促し、暫くして彼女だけが涼しい顔をして帰ってきて、席についた。
後日、目撃談を聞いたところによると、連中は屋上に連れ出され、彼女に瞬殺されたそうだ。――彼女は中国拳法の使い手でもあったのだ。
その一件で、男子からも女子からも一目置かれるようにはなったが、友だちと呼べるような存在は、なかなかできなかった。
俺も、席は隣だが、とくに何も訊かれないので、俺たちの間にも会話はなかった。