駄文(短)
□黒猫と私
1ページ/1ページ
最近我が家に、時々黒猫が遊びに来るようになった。
最初は檜佐木の家に行く途中にまとわりついてきて、抱き上げようとするとひょいと逃げてはまたまとわりつき、などということを繰り返すうちに追いかけっこになり、仲良くなった猫だ。お陰で、檜佐木の家はかなり荒れたのだが。
あの時は、一晩経つともう居なくなっていたが、そのうち、私の官舎の近くにも出没するようになった。気まぐれな奴で、フラりと現れてひとしきり遊んでいくと、またフラりといなくなる。
私は生き物になど興味はないが、猫だけは好きだ。なぜ瀞霊廷に猫が? と思わなくもないが、どこかのお屋敷で飼われているヤツが気まぐれに抜け出して遊びに来るのだろう、そう思っていた。
猫を相手に何を、とは思いつつ、猫だから、自然といつもの二番隊隊長としての顔ではなく、素で話しかけてしまう。最初は手なづけようと、それこそ猫なで声で。
「お前、この前の子? おいで。牛乳もあるよ」
ネコはやはり、人に飼われているのか、結構馴れている。私の言っていることも判るのか、すぐに寄ってきた。黒い毛並みは見事だ。そして金色の瞳は、忘れたくても忘れられないあの人物を彷彿とさせるのだが、この子には、関係のないことだ。ビロードのような毛並みを撫でながら、
「おいしい? 鰹節…、あったかな…」
猫はゴロゴロと喉を鳴らす。どうやら喜んでくれているようだ。つい、気が緩み、どうせネコだ、と最近気になって仕方がない男のことを、独りごちるでもなく話していた。
「あやつは、私のことを好いているなどと平気で抜かすが、実際のところ、とうなのだろうな。私はおちょくられているだけなのだろうか」
いつの間にかネコは、じぃっと私を見上げていた。まるで本当に話を聞いているかのように。
「でも、あやつの料理は美味しいし、家にも珍しいものが沢山あって、つい長居をしてしまうのだが、隊長としてこんなことでよいのだろうか?」
ひょいとネコを抱き上げて顔を近づけると、返事をするように、
「にゃあ」
と鳴いた。
「本当によいと思うか?」
「にゃあ」
「お前がよい、と言うのなら、よいのかな」
猫はするりと私の手からすり抜けて下に降り、もう一度「にゃあ」と鳴くといなくなってしまった。
それからというもの、私は時々、その猫に他愛もないことなのだが、誰にも話しはしないことーー檜佐木とのことを話していたのだが。
〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜
「のう、砕蜂。檜佐木とは最近どうなのじゃ?」
「…どう、と仰られましても、その…。」
「なんじゃ? 儂が猫の姿なら話すのか?」
「いえっ、あれはまさか夜一さまとは存じませず…、それにたいしたことは申しておりませぬっ!」
「そうか? 檜佐木がこんなことを言っただの、あんなことをされただの、何やら恋の悩みのようなことまで申しておらなんだか? 檜佐木がお主のことをどう思っているか、などと言うておったではないか」
「め、滅相もないっ!」
夜一さまはちょっと困ったお猫様だが、私は夜一さまも猫も猫グッズも大好きだ。