駄文(短)
□誕生日祝い(砕蜂視点)
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8月14日は、檜佐木の誕生日だ。何がそんなに嬉しいのか、何となく奴の言い分は理解したが、生憎その日は、私は現世任務で、瀞霊廷はおろか、尸魂界(ソウル・ソサエティ)にすら、いない。
が、やはり日頃、色々と世話をかけているので、この際、何かお返しをするべきだろうか?
私は部下たちより先んじて現世に赴くと、嫌で堪らなかったが、浦原商店を訪れた。
「あら〜。砕蜂サン、御機嫌よう。自らお出ましなんて、こりゃ、お珍しい。」
「『砕蜂隊長』と呼べ。浦原、これを尸魂界仕様にできるか? 三日以内だ。」
「おやすい御用ッスよん。はは〜ん。檜佐木サンへのプレゼントっスね。」
「な、なんで貴様っ!」
「だ〜って、砕蜂サンが、ご自分でこんなの使うわけないですもん。だとしたら、檜佐木サンへの誕生日プレゼントかな〜って。」
……何もかも見透かされているのが腹立たしい。
「とにかく三日後だ。工賃は追って請求しろ。」
「砕蜂サンならお安くしときま〜す。」
最早、「砕蜂隊長と呼べ」という気にもならなかった。私は後を追ってくる部下たちに合流すべく、浦原商店を後にした。
一方、浦原商店では。
「……っていう訳なんすよ、夜一サン。」
「ほ〜う、あの砕蜂がのう。檜佐木の誕生日に贈り物か。」
「間違いなくそうでしょ。じゃ、アタシはボチボチ仕事に取りかかりますかね。」
すると、夜一はなぜかニヤリと笑い、言った。
「のう、喜助。儂らからも檜佐木に何か贈り物をするかの。」
喜助も扇子を拡げて口許を隠すと、ニヤリと笑った。
「そうっすよねぇ。檜佐木サンは上得意さまッスから。」
たしかに檜佐木は、裏瀞霊廷通信・通販部門の男性向けDVD及び、プレーヤーを浦原商店から、つまり喜助に尸魂界仕様に改造してもらって、仕入れていた。上得意といえば上得意である。
だが、この2人が考え付くことが、お得意様への御礼などというものであるはずはなく、それは完全に悪戯の類いであった。
三日後。何とか仕事を片付け、浦原商店を訪れると、そこには夜一さまもいた。
「おお砕蜂、珍しいな。お主からここを訪れるなど。喜助から聞いたぞ。檜佐木に誕生日の贈り物をするというではないか。」
「なっ!」
思わず浦原のシレっとした顔を睨み付ける。が、夜一さまに、
「砕蜂、これは儂らから檜佐木への『ぷれぜんと』じゃ。日頃、可愛い妹分のお主が世話になっておるからのう。せめてもの礼じゃ。」
「夜一さま…。」
「そうっスよ。檜佐木さんはウチの上得意さ…、痛いっ」
何かを言いかけた浦原の足を、夜一さまが踏んづけた。
(上得意…?)
……。この時、夜一さまの口許がわずかに震え、そう、今にして思えば、笑いを堪えているように見えたことに、何の疑念も抱かなかった私がバカだった。
斯くして。私は檜佐木にとんでもない「ぷれぜんと」を渡すことになった。
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「檜佐木、返せっ!」
「嫌っすよ。俺が浦原さんと夜一さんから貰ったもんなんですから。」
「そ、そのような破廉恥なものっ!」
「でも、あなただって気持ちよくなれるほうがいいでしょ?」
「う……。」
「次の機会まで、俺、じっくりとこれ見て勉強しておきますから。それとも今から2人で見ます?」
まったく釈然としなかったが、檜佐木のもらったものを私が取り上げる道理もなく、言いくるめられていた私であった。
……。浦原、いつか殺す。