駄文(短)

□誕生日祝い(後)
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ケーキを食べ終わり、食器を片付けると、砕蜂が、

「じゃあ、私はこれで。」

「外、暑いし、もう少しゆっくりしてけば? 何か他に急ぎの用事でもあるのか?」

と帰ろうとする彼女を、俺は引き止めていた。なぜかもう少し砕蜂と2人きりの時間を過ごしたいと思った。

「いや、特に…。図書館に行って勉強でもしようかと思って用意はしてきたが。」

「なら、ここでしていけば?」

「……。ならば、檜佐木にでも聞こうと思っていた解き方の分からない数学の問題があるので、教えてもらってもよいだろうか。」

「あ、ああ。勿論っ! 俺に解ければいいけどな。」


そのまま、台所のテーブルに2人で向かい合って勉強を始めた。とりあえず、砕蜂が分からないと言っていた問題は解き方が分かったので、説明をするために彼女の横に座った。

「ここにこの公式を当てはめると……」

と説明を始める。ひと通り説明を終えて、

「今の説明で分かる?」

と顔を覗きこむと、至近距離で砕蜂と目が合い、そのまましばらく見つめ合ってしまった。時間にしたら、ほんの数秒だったのかもしれないが、2人で同時にはっとして、すぐに離れた。

「あ…、説明が悪かったか?」

と、俺は慌てて言った。心臓はバクバクしていた。

砕蜂は砕蜂で、

「あ、ああ。すまない。…説明してもらったら、ど、どうということもない、問題、だな。」

やはり、どこか動揺しているようだった。

――今のは何だったんだろう? あのまま見つめ合っていたら、どうなった?

「「あ、あのっ」」

2人同時に声が出て、また目が合った。そして今度はどちらからともなく、顔を近づけ、気が付くと唇を重ねていた。

俺にとっては初めてのキスだった。唇を重ねるだけの幼いキス。でも、それで充分(というか、いっぱいいっぱい)だった。おそるおそる彼女の背中に腕を回そうとしたその時。玄関のチャイムが鳴った。

「檜佐木〜っ! いるか〜? 盆参りのついでに誕生日祝い持ってきてやったぞ〜。」

……。一角だった。弓親も一緒にいた。

「お、おう。お前らか。砕蜂がケーキ持ってきてくれたんだけど、デカくて食いきれねえから、ちょうどお前らに声かけようと思ってたところなんだ。」

「あん? 砕蜂が来てんのか? 何かお前ら顔赤くねえか? まあ、お布施の代わりにケーキで勘弁してやるか。上がるぜ。」

「ねえ、一角。僕たち、お邪魔じゃないのかな。」

と弓親が鋭く突っ込むが、俺と砕蜂は、

「そんなことねえよっ!」
「そんなことはないっ!」

と、2人同時に答えていた。


その後、一角が手当たり次第に連絡のつく奴に声をかけ、その日は人生で一番賑やかな誕生日会になった。

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