駄文(短)
□誕生日祝い(前)
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8月14日。
それは俺の誕生日。18歳になると法的制約が少し緩くなるんだよな…。例えば、遊興施設への出入りがかなり自由になるとか、自動車免許を取れるとか、酒・タバコはまだか…。あ、結婚できるようになる…。ちょっと大人? いやいやいや、相手もいねえのに、関係ねえな。
夏休み、しかも盆の真っ最中だから、ここ数年は誰にも祝ってもらったことのない誕生日。両親の墓参りに行って、それなりに育っていることでも報告するか。そうぼんやり考えて、とりあえず着替えていると、玄関のチャイムが鳴った。
(誰だ…?)
そう思って出てみると、なんと砕蜂だった。
(着替えておいて、よかった。)
彼女は、レース使いが上品な白いワンピース姿で、腕には大きな紙袋を提げていた。
「砕蜂? どうした?」
「今日は、檜佐木の誕生日だと、伊勢に聞いたから…。これ。」
と言って、視線を逸らしたまま、紙袋を渡してきた。気のせいか、顔が赤い気がするが、それは暑さのせいだろうか。
これまでは、ご近所の目もあるので、ウチを訪ねてくる女子がいても、玄関で応対していた。
――「勉強を教えてほしい」というから、「近くの図書館に行こうぜ」と言うと、ほとんどの奴は、そのまま帰ってしまう。なぜわざわざウチにまで聞きに来ておいて、教えてやる前に帰るんだ? と頭に「?」マークの浮かぶ、天然な檜佐木ではあったが。
だが、その日は「色ンナ制約ガ無クナッタ」とぼんやり考えていたことが無意識に作用したのか、
「お、おう。暑いなか、わざわざサンキュ。冷たい麦茶くらいならあるし、上がってけよ。」
と、ごく自然に砕蜂を家に招き入れていた。砕蜂も少し躊躇いがちではあったが、
「では…、お邪魔する。」
そう言って家に入った。
砕蜂が持ってきたのは、ホールケーキだった。
(いくら何でもデカすぎくね?)
「一緒に食ってけよ。」
「でも、それは、檜佐木のだから…。」
「1人じゃ、こんなに食えねえよ。それに一緒に食ったほうが旨いし。」
「では…、お言葉に甘えよう。」
「折角だしコーヒーか紅茶くらい淹れるか。暑いし、アイスでいいか? インスタントかティーパックしかねえけど、コーヒーか紅茶のどっちがいい?」
「紅茶…。自分で淹れる。檜佐木は?」
「じゃあ、俺も。」
コップを出したり、湯を沸かしたり、氷を出してきたりと、2人で用意をしていると、それだけで何だか楽しい気分になれた。
アイスティーが出来上がり、ケーキを切ろうとすると砕蜂が、
「蝋燭を立てなくては。」
と律儀に18本、ブスブスとケーキに突き刺しはじめた。
「おいっ、ケーキ崩れるぞ?」
「だから、そうならぬよう、大きなサイズにしたのだ。」
(……。ま、いっか…。)
火を付けるためのライターかマッチを探すのが面倒だったので、1本の蝋燭にガスコンロで火を点けて、「熱い」だの何だの言いながらなんとか18本点け終わった頃には、アイスティーの氷は半分以上溶けていた。
それでも、誰かに祝ってもらう誕生日なんて、親父が死んで以来、久し振りだった。ケーキは、2人でも半分食べるのが限界で、こんなことなら、ほかの連中にも声をかければよかったか、と考えなくもなかったが、なぜか2人で過ごすのを「邪魔」されたくない、と思ってしまった。