仔砕部屋

□第12話
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しばらく、小さな砕蜂隊長と黙って手を繋いで歩く。最初はむくれていたが、河原を歩いていると不意に、
「私、ここ、…時々来る」
と言った。
「何か、思い出したことある?」
と尋ねると、
「えっとね。イヤなことや悲しいことがあると来るの」
「イヤなことって…?」
「『女が……、』とか『とうしゅ』が、とか、おじちゃんたちが来て話していると、よく分からないけど、イヤな気持ちになるの。ねえ、『とうしゅ』ってなぁに?」
「う〜ん。その家で一番偉い人ってことかなぁ」
「それなら、父さまや兄さまがいるわ? ……。そっか。もう父さまや兄さまは、いないんだ……」

マズかった。 小さな砕蜂隊長に事実を悟らせることになってしまった。

「それで、おじちゃんたちはあんなコワい顔してたんだ。私ではまだ小さいし、女だから……」

砕蜂隊長から漏れ聞いている幼少時代は、かなり熾烈な跡目争いがあったという。こんな幼い頃からだったのか、とあらためて実感すると胸が痛む。

「大丈夫だよ。梢綾ちゃんのことは、皆んなが守ってくれたから」
「檜佐木のお兄ちゃんも?」
「俺はまだいなかったなぁ。今の梢綾ちゃんくらいの頃は俺もまだガキんちょで、ビービーよく泣いてたな。俺は流魂街出身だから、死神になるなんて思ってもなかったしさ」
そう言うと、小さな砕蜂隊長は少し驚いたような顔をして言った。
「檜佐木のお兄ちゃんは、どうして死神になったの?」
「俺? 俺はね。ガキの頃、死神の隊長さんに虚(ホロウ)から助けてもらったことがあって、それで俺も死神になりたいって思ったんだ」
「その隊長って、もしかして夜一さま?」
小さな砕蜂隊長が目を輝かせる。
「う〜ん、残念ながら違うんだ。でも、その隊長さんもスゴく強い隊長さんだったよ」
「だった…? もういないの?」
……しまった。藍染隊長の起こした一連の事件のことなんて知らないんだ。
「いや、そんな深い意味は無いよ。俺も小さな頃でずっと前のことだから。今も(現世で)元気にしてるよ」
……嘘は言っていない。
「ふ〜ん。じゃあ檜佐木のお兄ちゃんは真央霊術院に行ったの?」
「ああ。でも、なかなか入れなかったんだ。2回も失敗してさ。あ、でも入ってからは頑張ったんだよ」
「そうだよね。副隊長さんになれたんだもんね。私はね。真央霊術院には行かないで、刑軍に入って夜一さまのお役に立てるように頑張らないといけないんだ……って、父さまが言ってた」
そう言うと、また少し悲しそうな顔をした。そして、
「父さまの言ったとおりに頑張れたのかなぁ、大人の私……」
と呟き、小さな砕蜂隊長は、しばらく黙り込んでしまった。一時的(と思いたい)とはいえ、こんなに小さな子どもが色んなことを抱えて悩んでいるのは可哀想だった。
「大丈夫。梢綾ちゃんはいっぱい頑張ったし、今も頑張ってるよ。夜一さんだって頼りにしてるんだから」
「本当?」
「ああ。だから夜一さんだって梢綾ちゃんに隊長を任せているんだから」
「よかったぁ。……父さまや兄さまにも、見せてあげたかったな……」
一瞬、テンションは上がったが、また、しんみりしてしまった。そして、そうこうしているうちに、蜂家に着いた。

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