仔砕部屋
□第10話
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昼休みが終わり、俺が戻ろうとすると、また小さな砕蜂隊長はグズりだした。
「え〜。檜佐木のお兄ちゃん、帰っちゃうの? つまんない。私も一緒に行く!」
さすがにそれは、色んな意味でマズい。すると、すかさず希代ちゃんが、
「梢綾ちゃん、我儘言って檜佐木副隊長さんを困らせたらダメよ? そうだ! 私の家に遊びに来ない? ご本も沢山あるし、おやつもあるわよ! 夕方になったら、またここに来たら檜佐木副隊長さんが迎えに来てくださるわよ。ね? 兄さま、いいでしょ?」
と提案してくれた。大前田さんも、
「お、おお。それがいいな。希代、たまには良いこと考えるじゃねぇか。砕ふぉ……、じゃなかった、梢綾ちゃん、どうだい?」
と、「渡りに船」とばかりに賛同した。砕蜂隊長は大前田さんと俺の様子を交互にうかがいながら、
「……わかった。希代ちゃんのお家に行く」
小さな砕蜂隊長は、頷いた。
その後は、大前田さんは希代ちゃんと砕蜂隊長を連れていったん家に帰り、俺は隊舎に戻った。去り際、砕蜂隊長は少し不安そうな顔をして、
「夕方、迎えに来てくれる?」
と言うものだから、
「じゃあ、仕事、早く終わらせるから、待っててね。一緒にお家に帰ろうか」
と、しゃがんで目線を合わせ、頭を撫でた。……なんだか、お兄ちゃんというよりは、お父さんになった気分だ。
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隊舎に戻る道すがら、俺は李大人に伝令神機で連絡を入れ、今日は自分が砕蜂隊長を送って行くこと伝え、ついでに午前中の砕蜂隊長の様子を伝えた。
『……そうでしたか。あやつ……、いえ、大前田…殿にも、そんな聡明な妹御がおられましたか』
……李大人。今、何と仰いました? 「あやつ」って……? 呼び捨てにしようとしませんでした?
『いえ、大前田殿の仕事ぶりをご覧になったら、何か思い出されるかと思ったのですが、檜佐木殿にはご迷惑をおかけしました。どうかご容赦を……』
何だか李大人の大前田さんに対する評価は、ひどい。
「俺は全然、迷惑なんて……。あの、そういう訳で、俺、砕蜂隊長と一緒にそちらに参ります。えっと……、お世話になります……」
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定時後、俺が二番隊隊舎に行くと、希代ちゃんが砕蜂隊長とお絵描きをして待っててくれた。
「梢綾ちゃん、檜佐木副隊長さんだよ。早く来てくださって、よかったね!」
「うん」
「希代ちゃん、ありがとう。じゃ、梢綾ちゃん、帰ろうか」
「うん!」
俺は大きな荷物を背負って、小さな砕蜂隊長を連れて隊舎を出た。