仔砕部屋

□第9話
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いきなり置いてけぼりになった小さな砕蜂隊長は、不安と不満の入り交じった顔をした。そして、

「大前田のおじちゃんと遊ぶの、……ヤダ」

と、むくれ、終いには、

「檜佐木のお兄ちゃんのところに連れてってよぅ」

とグズりだした。仕方がないので、妹さんの希代ちゃんを呼び出すと、性格の良い希代ちゃんにはすぐに懐いて、今の今まで大前田さんと3人で「毬遊び」をしていたそうだ。

ただ、どうやら希代ちゃんも見かけによらずお転婆なところがあるようで、

「兄さま、行きますよ〜!」

と投げてくる毬が、とんでもない豪速球で、同じく小さくなったとはいえ怪力の砕蜂隊長も負けず劣らずの豪速球を投げてくるものだから、大前田さんは受けるどころか避けるのが精一杯で、そのうち「毬遊び」は大前田さんを標的にした的当てとなった。その結果がこのボロボロの大前田さんという訳だ。

するとまた、希代ちゃんが、

「兄さま、お腹が空きました。梢綾ちゃんも、お腹空いたよね?」

と言った。そこで、俺は砕蜂隊長が元の姿に戻っていたらと、ダメもとで持ってきた弁当を取り出した。

「これ……、食べる? よかったら俺のもあるし」

と取り出すと、希代ちゃんは、

「わあ、美味しそうなお弁当! 兄さま、いただいてもいいですか?」

などと嬉しいことを言ってくれた。大前田さんは、

「あぁん? そんな庶民の味なんて口に合わねえぞ。ここは俺様が……」
「檜佐木副隊長さんの持ってきてくださったお弁当がいいです! 梢綾ちゃんも、そうよね?」
「私は……、檜佐木のお兄ちゃんのお弁当が……いい……」

……希代ちゃん、なんて良い子なんだ。大人の砕蜂隊長用に作った弁当だが、希代ちゃんと半分こ、となると足りない。俺の弁当を希代ちゃんに回して、俺と大前田さんは出前を取ることにした。

希代ちゃんは何かと、小さな砕蜂隊長の世話をやいてくれている。こうしていると、本当の姉妹のようだ。

「梢綾ちゃん、好き嫌いしちゃダメよ。大きくなれないんだから」
「でも……。私、これ…、なんかヤダ……。これ…、何?」
「う〜ん。何だろう?」

どうやらタコさんウィンナーのことを言っているみたいだ。

「分かった! ウィンナーよ。こんな風になってるのは初めて見たけど。檜佐木副隊長さんが作ったんですか?」
「ああ、まあ……。切っただけだけど……」
「すご〜い。今度、私にも作り方、教えてください!」

大前田さんには悪いが、何で希代ちゃんみたいな良い子が大前田さんの妹なのか、分からない。

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