仔砕部屋
□第8話
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翌日。数日分の着替えと最低限の身の回り品の支度を整えて出勤すると、それでもかなりの荷物になった。早速部下から、
「檜佐木副隊長、遠征にでも行かれるのですか? 何か特務でも入りました?」
と言われた。
「い、いや、しばらく、自宅を離れて別のところから通勤しないとならなくなって……」
「同棲っすか?!」
若い席官が興味津々で訊いてくる。
「ち、違うっ! その、……昔から世話になってる人が、具合が悪くなって、しばらく夜だけでも傍にいたほうがいいかなぁ……、と」
「では、檜佐木副隊長にとってはご家族のような…?」
「まあ、そんなところだ。俺は流魂街出身だから、他人でも家族みたいに助け合ってた、っつーか……」
「お大事になさってください」
「お、おお。ありがとな」
咄嗟によくこんな嘘をついたものだ。
その日の昼休み。何となく二番隊隊舎に向かった。もしかして、すっかり元に戻った砕蜂隊長が、何事もなかったかのように居るような気がして。だが、やはり彼女は居なかった。
と、執務室の扉が開き、
「おぅっ! 檜佐木っ! ちょうどよかった!」
と声をかけられた。振り向くと、ボロボロになった大前田さん……と、小さくなった砕蜂隊長。そしてもう一人、今の砕蜂隊長よりはいくつか歳上の可愛い女の子、……大前田さんの妹の希代ちゃん?
「兄さま、お腹が空きました。……あ、檜佐木副隊長さん! いつも兄がお世話になっております」
ペコリと頭を下げる。いつもながら、なんて良い子なんだ。
「希代、余計なこと言ってるんじゃねえ!」
すると、
「檜佐木のお兄ちゃん? 来てくれたんだ!」
と、小さな砕蜂隊長が駆け寄ってきた。
「どうしたんすか?」
「どうしたも、こうしたも、ねえよっ! あの爺さんが砕蜂隊長の手を引いて現れたと思ったら、俺に押し付けて帰りやがんの!」
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時を遡ること3時間ほど前。隊長不在なのをいいことに、のんびりと油煎餅をかじって寛いでいた大前田の元に、小さな砕蜂隊長を連れた李大人が現れた。
「御免下さいませ。……ほほう、大前田副隊長殿は、些かお手隙とお見受け致しました。夕刻には、お迎えに参ります故、砕蜂様をお任せいたしました」
「爺や、帰っちゃうの?」
「檜佐木様はお忙しい故、こやつ…ではなかった、大前田副隊長殿が梢綾様のお相手をして下さりますよ。では、御免っ!」
「テメっ! 『こやつ』とか言いやが……、あ。」
大前田さんが言い終わらないうちに李大人は姿を消したそうだ。