仔砕部屋
□第4話
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李大人は、
「お帰りなさいませ、梢綾お嬢様」
そう言って屈むと、小さな砕蜂隊長の手を取った。すると彼女は、
「あのね。私、虚(ホロウ)のせいで小さくなっちゃったんだって。でも、小さくなっちゃう前のことが思い出せないの。私、おとなだったの?」
「ええ……。でも、梢綾さまは梢綾さまですよ。爺が忘れるものですか。……おお、いけません。まずは、檜佐木副隊長殿に御礼を申し上げなくては。それと、檜佐木様、もう少し詳しくお話をお聞かせ願えますでしょうか? さ、お入りくださいませ」
俺は応接間に通され、李大人と2人になった。そこで俺は大前田さんから聞いたことを話した。四番隊、十二番隊に診てもらったが、肝心の虚が滅されてしまったので、原因解明と対応処置が遅れていること、砕蜂隊長は当分の間、実家で療養ということにした、ということなどを説明した。李大人はしばらく考え込んでいたが、徐ろに口を開いた。
「砕蜂様がご自身の名を受け継がれたことをご存知ない、ということは、まだ先の当主、つまり砕蜂様の父上や、兄上がご存命の頃まで記憶が戻っておられるかと……」
「じゃあ、今の砕蜂隊長に、父上や兄上のことは……」
「知らさないほうがいいですね」と言いかけたところで、カチャリと扉が開いた。砕蜂隊長だった。
「ねえ、爺や。まだ檜佐木のお兄ちゃんとお話……? この家、人が少なくなっちゃったのね。何だか寂しい」
一瞬、俺はギクリとするが、小さな砕蜂隊長は、あどけない表情で俺と李大人を見比べる。俺は何だかいたたまれなくなり、
「では、俺はこれで失礼します」
と言って帰ろうとすると、
「檜佐木のお兄ちゃん、帰っちゃうの?」
と言う。その寂しそうな顔に李大人も一瞬、困った表情を浮かべ、
「では、檜佐木様、お食事だけでもご一緒にいかがですか? すぐに用意いたしますので……」
と言うので、俺は帰るに帰り辛くなってしまった。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
そう答えると、小さな砕蜂隊長の顔は、ぱぁっと輝いた。