仔砕部屋

□第3話
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こうして俺は、小さくなってしまった砕蜂隊長をご実家に連れて行くことになった。定時後に二番隊隊舎まで迎えに行って、手を繋いでゆっくり歩いた。それにしても、何を話したらよいものやら。だが、隊舎を出た途端、彼女のほうから話をしてくれた。どうやら俺は嫌われてはいないようだ。

「あのね。……私、虚(ホロウ)のせいで小さくなっちゃったんだって」

繋いだ手に僅かに力が入る。

「梢綾ちゃんは、虚を見たことあるの?」
「まだ……見たことない……。でも、私もこれから頑張って、虚をやっつけられるように強くならなきゃいけないの」

まだ、暗殺家業のことまでは聞かされていないのだろうか。あと、今の砕蜂隊長の記憶は、父上や兄上が殉職される前なのか後なのか。俺は言葉を選びながら、思いきって尋ねた。

「お父さんやお兄ちゃんとは、よくお話するの?」

すると、ちょっと寂しそうに、

「父さまも兄さまも、いつもお仕事で忙しいの。もう、ずいぶん長い間、お仕事から帰ってこないから……」

微妙だ。本当に多忙で会えないのか、既に殉職して亡くなっているのを李大人が黙っているのか、……あるいは本人も薄々気づいているのか。だが、これ以上は触れないほうがいいと判断して、話題を変えることにした。

「そうだ。梢綾ちゃんは、虚のせいで小さくなっちゃう前、俺と仲良しだったんだよ」
「ええっと、檜佐木のお兄ちゃんと?」
「うん。お弁当を一緒に食べたり、あちこち遊びに行ったり、よく俺ん家にも遊びに来てくれるよ」
「ふ〜ん。そっかぁ……」

そんなことを話しているうちに、蜂家に着いた。門番さんに会釈すると、幼い女の子を連れていることに一瞬、怪訝な表情をした後、驚愕の表情を浮かべた。俺は目配せをして、家令の李朱旭大人を呼んでもらうよう頼むと、門番さんは事情を察してくれたのか、急いで李大人を呼びに行ってくれた。

「変なの。趙はいつも『お帰りなさい』って言ってくれるのに。私って分からなかったのかな……」
「久しぶりに小さくなった梢綾ちゃんと会ったから、びっくりしただけじゃないかな?」

俺は、慰めにならない言葉と知りつつ、そう言った。そして、しばらくすると李大人が慌てた様子で駆けてきた。

「あっ、爺や!」
「砕…蜂…様!?」
「梢綾よ。何故、皆、大婆さまの名前で私を呼ぶの? 爺や、私のこと、分かる?」

このやり取りで、聡明な李大人は、おおよその事情を理解してくれたようだ。

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