仔砕部屋

□第2話
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今のところ、このことを知っているのは俺と大前田さんを含めて関係各所の隊長・副隊長格の数名である。あと、傍に居合わせた若干名の二番隊隊士および刑軍の団員には、箝口令が敷かれている。

「梢綾ちゃん、何か思い出せることない?」
「無駄無駄。今まで散々訊いたっつーの!」

小さな砕蜂隊長もかぶりを振る。が、ややあってポツリと言った。

「爺やは…?」

そうだ。家令の李朱旭さんがいたではないか。彼になら事情を話して、しばらく誰の目にも触れさせないようにして暮らすことができるのではないか?

「大前田さん、砕蜂隊長ですが、しばらくの間、ご実家で『療養』ということにされては…?」
「……お、おう。……そうだな。じゃ、お前連れて行ってくれよ?」
「俺っすか?」
「俺、あそこの爺さん、苦手なんだよ」
「大前田さん、何かやらかしたんすか? すごく感じの良い方じゃないですか」
「そうかぁ? 俺様には何か、そっけなくて冷てえぞ? 『我が家の姫様に何か?』みてえな。誰もどうこうしやしねえよ、あんなおっかねぇの」

……。俺が破格の待遇なのか、大前田さんが何かやらかしたのか。砕蜂隊長の大前田さんに対する扱いが如実に反映されているのかもしれない。

とにかく俺は、小さな砕蜂隊長を、ご実家に送り届け、李大人(注:中国の言い回しで「李さん」の意)に事情を説明する役目を引き受けることにした。

「梢綾ちゃん、俺は檜佐木修兵。よろしくね」

しゃがみこんで目線を合わせた。一瞬、怯えた表情を見せたが、今度は黒目がちな眼で、じっと見つめてくる。

「ゴメンね。俺、おっかない顔してるから……」
「あの……。傷、痛くない? 大丈夫?」

俺の顔の傷を心配してくれたのか。……優しい。

「ああ。もう痛くないよ」
「そっかぁ。よかった」

すると、それまで硬かった表情が少し和らいだように見えた。

「檜佐木副隊長さんが、爺やのところまで送ってくれるの?」

思わず苦笑して、

「『副隊長さん』はいらないよ」

と言うと、

「じゃあ、……檜佐木の……お兄ちゃん……?」

いつもの勝ち気な砕蜂隊長からは想像もつかない。小さい頃は、意外と内気な性格だったようだ。でも、俺が副隊長というのが、よく分かったな。

「なんで俺が副隊長って分かったの?」
「え〜っと……。大前田のおじちゃんと同じ『ふくかんしょう』を付けているから……。兄さまが教えてくれたの。その札みたいなのを付けている人が副隊長さんだよ、って……」
「おいっ、俺はオッサン呼ばわりかよっ!?」

砕蜂隊長の大前田さんに対する扱いは、幼い子どもに戻っても、それなりに酷いようだ。それにしても、砕蜂隊長の記憶はどのくらい幼い頃まで戻ってしまっているのだろうか?

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