駄文(長)
□それぞれの過去
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あの黒猫が現れてから、砕蜂隊長が時々、夢にうなされるようになった。そして涙を流すことがある。あの砕蜂隊長が。
言葉はよく聞き取れないが、
「よ……ちさ、ま」
「……いち……ま」
どうやら男の名前のようだ。とっても面白くない。が、俺と砕蜂隊長との付き合いは短い。しかもいわゆる「恋人同士のお付き合い」ですらないので、砕蜂隊長の過去を詮索するなどもってのほかだ。
俺はどうすることもできず、わずかな罪悪感とともに、ぎゅっと抱きしめて背中をさするくらいのことしかできなかった。
ただ、何度かそのようなことが続いたので、俺は思い余って訊いてみた。
「最近、悪い夢にでもうなされているみたいですが、お疲れですか?」
「い、いや、そんなことはない。」
(なぜ、誤魔化す?)
「でも、俺としちゃぁ、正直、惚れた相手に布団の中入ってこられて、夢ん中のこととはいえ泣かれるっていうのはこう、ムラムラっと……。」
咄嗟にヘラリとこちらも誤魔化す。だが、俺はやはり訊いてはいけないことを訊いてしまったらしい。
「……檜佐木。当分、貴様の家には行かぬ。」
「へ? あ、あのムラムラとかいうのは冗談です。なんもしてませんっ!」
「いや、そういうことではない。とにかくしばらく行かぬから。……すまぬ。それ以上は訊かないでくれ。」
いつもなら、鉄拳が飛んできても仕方がないところなのだが、逆に怖い。というか、しばらく来ないって、そんなっ!
――俺は後悔した。