旧・拍手御礼駄文
□クリスマスのサプライズ
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12月に入り、こちら(尸魂界)でも、ここ数十年は、クリスマスという欧米の行事が取り入れられるようになってきた。
一説には、「英国紳士」「英国文化」に憧れる雀部副隊長が持ち込んだ、とも言われてもいるが、ここ数十年でこっちに来た人たちも、現世でのこの行事の楽しく華やいだ雰囲気の記憶は漠然と残っていたらしく、たちまち根付いてしまった。
元々、忘年会シーズンでもあるため、それらと相俟って、あちこちで酒宴が催されていた。
俺も当然、流行には乗りたいほうだ。とくに現世でのクリスマスイルミネーションは、とても綺麗でロマンチックだ。砕蜂隊長を誘わない筈がない。
という訳で、砕蜂隊長をデートに誘うことにした。
いつものように昼休みに、二番隊の執務室に上がり込む。
最近は寒くなってきたので、弁当は電子レンジ(大前田さんのポケットマネーで購入されたもの)で温める。ついでにレトルトの味噌汁(浦原商店から仕入れた)も付ける。
比較的機嫌よく弁当を食べ始めた砕蜂隊長に、現世のクリスマスイルミネーションを見に行かないか、とデートのお誘いをする。
「……。」
(あり? 反応ナシ?)
「この時期は、『くりすます』とやらで騒がしいから嫌だ。」
彼女がクリスマスのことを知っていたのは意外だった。
「でも、最近ではイルミネーションと言って、電飾で夜景がきれいなんですよ。」
「あの人混みが好かぬのだ。」
「まあ、そう言わず、ね? 行ってみたら楽しいかもしれないじゃないですか。」
「……考えておこう。」
そう言ったきり、彼女は何か考え事をするかのように黙り込んでしまった。
〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*
そして、クリスマスイブ。あちこちで、酒宴が催されていた。結局、砕蜂隊長とは約束を取り付けることができないまま、その日を迎えた。
俺は、吉良や恋次、乱菊さんたちと呑んで早々に家路についた。もっと飲み明かしたい気分だったのだが、乱菊さんが、
「あたし明日は非番なんだけど、デートが入ってるしぃ。」
などと実に羨ましいことを言って帰って行ったので、なんとなくお開きになってしまったのだ。ほろ酔い加減で家に帰ると、
「遅いっ!」
と聞き覚えのある声がした。
「へ?」
それは砕蜂隊長だった。
「あの…。今日って、ウチに来られる予定でしたっけ…?」
ムスッとして彼女が言った。
「『さぷらいず』は先に言っては意味がないではないか。」
「はい?」
「折角『ぷれぜんと』を持ってきてやったのに。」
卓袱台の上には、それらしい包みが置いてあった。あれほどクリスマスを嫌って(いるように見えて)いた砕蜂隊長が、今晩わざわざ来てくれるとは思っていなかったが、俺は、翌日の昼休みに渡そうと思って用意していたプレゼントを押し入れから取り出した。
「はい、これ。隊長に明日渡そうと思っていたプレゼントです。あの、俺が貰ったプレゼント、今ここで開けてもいいっすか?」
「…うむ。」
果たして中身は。
それは、マフラーだった。
(これって、どこかで見たような…。)
奇しくもそれは、俺が彼女と現世に遊びに行くときに使ってもらえたら、と思って砕蜂隊長に贈ったのと同じようなマフラーだった。最初は洋服も考えたが、彼女の、女性のサイズはわからない。さすがに恋人でもないのにアクセサリーをいきなり贈ったらドン引きされそうだし、予算の関係もある。無難なところで小物、マフラーあたりにしておこうと思ったのだ。そこで、現世通の乱菊さんに訊いてみたところ、彼女は、俺でも買える流行の店を教えてくれた。
(……っていうか、これって、俺が貰ったのと同じじゃないのか?)
ちょうど、俺が贈った包みを開けていた砕蜂隊長も、呆気にとられて、マフラーを見ていた。と2人同時に、
「乱菊さんっ!」
「松本っ!」
と叫んでいた。
「あのう…。もしかして砕蜂隊長も乱菊さんに…?」
「う、うむ。…檜佐木に何か『ぷれぜんと』を、と思ったのだが、男物を私が買うのは恥ずかしくて…。」
「それで乱菊さんに相談したと…?」
「あ、ああ。その店なら、男女兼用のものが多いから、と…。」
「俺は、現世に遊びに行くときに使ってもらえたら、と思って、あっちで流行ってる店を教えてもらったんすけど…。」
はっきり言って、2人のマフラーは、色違いのお揃いだった。確かに店までは教えてもらったが、同じアイテムとデザインを選ぶとは。思わず2人で吹き出した。
「…檜佐木、貴様これを着けるのか?」
「そりゃ、もちろん。で、あなたは?」
「ま、まあ、着けてやらぬことはない。」
目を泳がせながらそう言う砕蜂隊長は、可愛かった。
さて、2人でお揃いのマフラーをしてどこに行こうか?
「ところで、よく『サプライズ』なんて言葉をご存知でしたね。」
「松本が、こういうのは、期待させずに驚かせると『効果的』だとか何とか言って、それを『さぷらいず』というのだと言っていたが、何が『効果的』なのだ?」
……俺の春は、まだまだ遠い。