旧・拍手御礼駄文

□端午の節句
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今日は端午の節句だ。相変わらず、砕蜂隊長は忙しい。

黙々と食べて、小さな声で「ごちそうさま」を呟くように言うと、黙って弁当箱を檜佐木に返すのが通例だが、その日は違った。

「檜佐木、これを。」

「何すか、これ?」

「柏餅だ。小腹が空いたら食べろ。」

「ありがとうございます! でも折角なら、今、ここで一緒に食べましょうよ。」

「私は今の弁当で腹がいっぱいだ。それは貴様のだ。」

「俺だって1人でこんなに沢山は食えませんよ。」

檜佐木は、柏餅を半分に割ると、

「はい。このくらいなら食べられるでしょ。味見しましょうよ。」

「む…。なら、ひと口もらおうか。」

「じゃあ、俺、お茶淹れてきますね。」


見た目は地味な包みだったが、柏餅はとても美味だった。

「これ、すっごい美味いっスね。砕蜂隊長御用達のお店なんですか?」

「ああ…。」

「へ〜え。砕蜂隊長でもお菓子を召し上がるんですね。また、店の名前と場所を教えてくださいよ。」

「そのうちな。ここのは甘すぎず、私も気に入っている。」

砕蜂も一度は「要らない」と言ったが、檜佐木と半分コなら食べられたようだった。

しかし、砕蜂が食べ終わった頃には、檜佐木は、もう1つに手を伸ばして頬張っていた。

「よくそんなに食べられるな。」

砕蜂は呆れ顔で言った。と、檜佐木の口の傍に餡がついているのに気がついた。自然と手が動いていた。

「檜佐木、付いている。」

と指で餡を取ってやった。
檜佐木が砕蜂のこの突然の思いがけない行動に慌てふためき、真っ赤になったのは言うまでもない。

だが、張本人である砕蜂もまた、自分でもなぜそんなことをしでかしたのか分からず、真っ赤になって固まっていた。

暫く沈黙が続き、檜佐木がハッとしたように、

「俺、そろそろ戻りますね。お菓子、ごちそうさまですっ。」

そう言って、二番隊隊舍を立ち去った。

後に残された砕蜂は、とりあえず指に着いた餡を舐め取り、1人でまた赤くなっていた。(懐紙で拭えばよいものを、何をしているのだ、私は。)


一方。慌てて二番隊隊舍を後にしたものの、砕蜂の突然の行動に、自然と顔がにやけてしまう檜佐木であった。


――ちなみに。

「今日の檜佐木先輩はやけに機嫌がよかったですよ。」

というのは三番隊副隊長・吉良イヅルの証言。

「檜佐木とすれ違った時、『いやぁ、こどもの日っていいですねぇ』などと言われて、柏餅を1つだけ渡された。」

とブスっと語ったのは、十番隊隊長・日番谷冬獅郎である。

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