異世界A

□長い1日の終わりA
1ページ/3ページ

檜佐木からの思わぬ電話に、しばらくぼ〜っとしていた砕蜂だったが、洗濯機の停止を告げるブザーで、はっと気を取り直した。

え〜っと、あとは水着…。タグに、手洗いのあと軽く脱水と書いてあるな。

手を動かしながら、また考え込んでしまった。今度は昼間、取り乱してしまったことについてだ。檜佐木が言ったように、たしかに兄の死を突然思い出したことは、正直ショックだった。だがそれ以上に、己れがその時の記憶を失っていたことの方ががショックだ。自ら封じたのか、あるいは誰かの意図によって封じられていたのか?

もし後者だとしたら、それは父の仕業ではなかったか。父も何かを知っていた…? しかし、今となっては確かめる術(すべ)もない。

そこでまた、檜佐木の言葉が甦ってくる。

「お前はもう独りじゃない」「辛かったら頼れ。」

……。頼ってもよいのだろうか? 父の存命中から、「信じるものは己れのみ」という生き方を貫いてきたつもりだった。だが、この学校に転校してきて、……檜佐木と出逢って、みんなと出逢ってから、自分の生き方は180度変わったと思う。

檜佐木なら、頼ってもいいのだろうか? 不意に、プールから上がったとき、不覚にも足腰が立たなくなってしまい、檜佐木に背負われることになった時のことが思い出された。

檜佐木の逞しく広い背中。たしかにあの時の私は、心理的にも物理的にも檜佐木に頼りきっていた。つい頬までくっつけてしまったのはなぜだろう? なんて恥ずかしいことをしたのだろう。またかぁーっと熱くなって、なんだか心臓までどきどきしてきた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ