異世界A

□雨宿り
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どうして檜佐木が相手だと、こうも嘘がつけないのだろう。一番言いたくなかった、胸を気にしている、ということだけは何とか言わずに済んだが(下着が透けて見えるのが嫌だ、と遠まわしに言ったつもりだ)、泳ぎが苦手なことまで喋ってしまった。

雨はひどくなる一方なので、廃業していると思われる店の軒先を借りてしばらく雨がおさまるのを待った。

「……。なあ。泳ぎが苦手だっつても、水が怖いとか、浮けない、とかそういうわけでもなさそうだよな。どうせお前のことだから、友だちとプールに遊びに行く、なんてことは、してこなかったんだろ。」

「う……。」

図星だった。

「でも、小学校や中学校の時はどうしてたんだよ?」

「小学校の頃は、身体が弱いことにして休んでいた。そもそも父が健在だったから、特訓に身体がついていかず、学校を欠席することも多かったしな。中学・高校は私立一貫校で、学校にプールがなかったから体育の授業で水泳はほとんどなかった。水泳の時は休んでいた。」

「よくそんなんでやってこれたな…。」

「そうだな…。」

しばらく沈黙が続いた。

その時、廃業していると思っていた店の引き戸がガラリと開いて、中からステテコに下駄、すっぽりと目元まで隠れる帽子をかぶった、今時珍しい恰好をした男性が現れた。

「あんら〜。お2人さん、ずぶ濡れじゃないっスか。その制服は空座第一高校の生徒さんっスね?」

「え? そうですけど…?」

「何なら、中、入ってくださいよ。お茶の1杯も出しますよん。アタシも空座高校のOBなんスよ。後輩がお困りの様子とあっちゃあ、黙って見てられません。ささ、どうぞ。」

「「え? え?」」

何だか下駄帽子のおじさんの言うがまま、店の奥に通されてしまった。
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