異世界A

□夏服になれない理由
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しとしとしと。鬱陶しい梅雨がやってきた。

夏服にはなったものの、蒸し暑いのは変わらない。ただ、図書室だけはクーラーがあるので、これからの暑い時期は、ウチの学校の図書室もしばらくは込み合う。相変わらず砕蜂はカーディガンを羽織っている。たしかに、図書室に入り浸っている彼女には、クーラーは身体によくないのかもしれない。

放課後、例によって図書室で自習しているときに、ふと尋ねてみた。


「なあ、お前、ちゃんと病院に行ったのか?」

「へ? あ、ああ、いや…。」

「ちゃんと行かなきゃだめだろ? 受験生は健康管理も大事だぜ。」

「病院は好かん。一応、漢方を飲んでるから大丈夫だ。」


砕蜂が口から出まかせを言うと、檜佐木は薬の名前や製薬会社の何番かなど、細かいことを訊いてくる。本当に面倒なことになったと砕蜂は思った。

下校時刻を知らせるベルが鳴り、なんとなくいつものように一緒に帰ることになる。

「そういえば、お前、まだウチの学校のプールに入ったことねえよな。そろそろ水泳部が駆り出されて、掃除させられるころだな。水を張ったばかりのプールは、広くて気持ちいいんだぜ。」

「檜佐木は…、水泳は得意なのか?」

「まあ、人並みには泳げるけど、習ったことはないからなあ。フォームとかはあまりよくないんだ。お前だったら、またきれいに泳ぐんだろうなあ。」

(……言えない。泳ぎが苦手だなんて。これは予備校の前にジム通いか?)
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