異世界
□友だち
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私は相変わらず、昼休みと放課後は図書室で過ごした。檜佐木は、あれから図書室にはあまり姿を現わさない。用事があっても、あえて離れた席に座る。
何か胸がぎゅっと締め付けられるような感じがした。こんな気持ちは、初めてだ。
やがて、独りでいることが日常となりつつあったある日、突然、檜佐木がやってきた。「顔を貸せ」と言うのだが、断った。すると、檜佐木は私の前にどっかと座って動こうとしない。
なぜか鼓動が早くなる。いっそ席を変えようかと思ったが、何となく悔しいので、そのまま素知らぬ振りをした。だがなかなか勉強に集中できない。
結局、気がつくと下校時刻になっていて、仕方なく帰り支度をして図書室を出た。案の定、檜佐木が付いてくる。
「付いてくるな。」
と言うと、
「別に、校門あっちだし、関係ねーじゃん。」
と憎たらしい答えが返ってきた。これにはさすがにムっとした。そして一計を案じた。
「ほう。女子トイレの中にまで付いてくるのか。人を呼ぶぞ?」
そう言ってトイレに入り、窓から雨どいを伝って下に降りると、一目散に後ろも振り返らず、校門を目掛けて走り去った。
今頃、檜佐木はどうしているだろうか? 私が「脱走」したことに気づいただろうか?
子どもじみている、と我ながら呆れたが、悪戯が成功して、檜佐木とこれ以上気まずい時間を過ごさずに済んだことに、少しだけほっとした。だが、自分でも形容し難い複雑な気分だった。