異世界
□和解
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俺も砕蜂の驚いたような顔を見て驚いた。そしてまた言い訳がましく言った。
「あ、あの…、その、俺はだな。お前、なかなか友だちできねえみたいだから、俺があれこれ世話焼きすぎて、他の奴らと話すのにかえって邪魔になってたんなら悪ぃ、って思ったんだよ。」
そして、
「あと、言葉づかいのことも、悪かった。んなもん、人それぞれだしな。ホント、ゴメン。悪かった。」
しばらくの沈黙の後、砕蜂がふっと溜息を吐いて言った。
「檜佐木は本当に優しいんだな。」
「へ?」
(今、なんつった?)
「私は、他人とはなるべく関わらないようにしてきた。だから前の学校でも『友だち』などと呼べる者はいなかった。」
「何でそんな肩肘張ったことしてるんだよ。」
また、しばらくの沈黙が流れた。
「私は亡くなった兄の代わりに、蜂(フォン)家の当主として育てられた。物心ついた頃から『ひたすら強く孤高であれ』と。だから、いつのまにか、男のような偉そうな話し方になっていたんだろうな。」
砕蜂が少し淋しそうに言った。
「なあ、お前ん家って、そんな凄ぇ家柄なの?」
「先祖はかつて暗殺を生業とした一族だ。曾祖父の代に革命が起きて中国本土にいられなくなり、日本に渡ってきて、曾祖父は横浜で事業で成功した。華僑として普通に暮らそうとしたらしいのだが、人の口に戸は立てられない。かえって成功したことで、妬みや恨みを買ってしまい、こちらの中国人社会から疎外され、かと言って日本人社会にも受け入れられず、仕事上の付き合いはあっても、我が家は常に孤独だった。だから、強くあらねばならなかった。」
「……。なんだかよく分かんねえけど、大変だったんだな。」
俺はそう言うのが精一杯だった。
すると再び砕蜂が言った。
「檜佐木に親切にしてもらって、最初は鬱陶しかったが、今まで他人に親切にされたことなどなかったから、つい甘えてしまった。だが、これ以上甘えるのはよくないと思って距離を取ったのだ。」
「だから、何で?」
「檜佐木はモテると皆が言っているからだ。私などと噂になっては貴様が迷惑ではないか。」
「えぇ? 俺、モテてるの?」
「貴様は阿呆か。自分がどう思われているか気がつかぬのか?」
「まぁ、たしかにあんまり気がつかなかったなぁ…。この面(ツラ)だし。」
俺はポリポリと頭を掻きながら言った。