異世界

□はじめての会話
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ウチの生物の教師・涅先生はかなり癖のある性格で、ある意味、よく教員採用試験に通ったものだと思う。やたらと解剖実験が多いのも、ほとんど趣味ではないかと思える。

ある時は、ゴキブリを使った実験で、女子が悲鳴をあげた途端、

「なんだね。一々うるさい連中だネ。これは実験用に飼っているヤツらだから、菌は持っていない。口に入れても大丈夫だヨ。」

そう言って本当にゴキブリを口に入れて見せたことがあった。当然、騒ぎが更に大きくなったのは言うまでもない。

一事が万事こんなだから、あとう限り、ウチの高校で理科の選択では生物は避けられる。

そのため、定員に空きが多く、転校生である彼女は選択の余地なく、理科は生物になってしまった。

だが、理数系で入試科目に生物が必須の大学進学希望者は、泣く泣く涅先生の生物を選択しなくてはならない。かく言う俺も、一応医学部志望なので、泣く泣く生物を選択した1人だ。お袋のような人を救いたい、親父のような事故に遭った人を助けたい、そう思ったからだ。

ちなみに、涅先生には一人娘がいて、彼女もこの高校に今年入学してきた。よくあの親父さんと同じ学校に入る気になったな、と思う。というか、あの涅先生に娘がいること、何より妻がいる(過去形かもしれない)ことが驚きだ。

当然、奥さんには逃げられた、という噂があるが、真相は定かではない。どちらにしても、一時でも結婚していた事実があるのなら、世の中何があっても不思議はない気がする。

そして、あの転校生が涅先生の洗礼を受ける日がやってきた。
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