頂き物

□生きる
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「放せ・・・・」
隠密機動総司令官の砕蜂の腕をはるかに逞しい白哉の腕が押さえつける。白くて細い砕蜂の腕は白哉の片手で掴む事が出来、簡単に抑え込んでしまう。
「大人しくしろ」
任務を終えた砕蜂は夜の森で鍛錬をしていた。月が綺麗な、透き通るような夜だった。なのに砕蜂の中には任務で手間取った苛立ちが残り、それをぶつけるように体をいじめ倒していた。そこに、白哉が現れて至る。
「何をする・・!」
刑戦装束の脇から手を入れると、そこに触れた生暖かい紅い感触に白哉は眉を顰める。
「手負いではないか」
静かに綺麗な唇で言うと白哉は気を込めだした。それが回道、治癒につながるものだという事はすぐに砕蜂にも察しがついた。
「やめろ・・」
「なぜ治療しない。四番隊にも行ってはいないだろう」
感情の読めない眼差しで問われて砕蜂は唇をかみしめる。純粋に任務で傷を負った自分の未熟さが悔しく恥ずかしかった。隠密機動総司令官でありながら大した敵ではないのに傷を負った・・と後ろ指を指されるような気がしたのだ。また、砕蜂が目指した前任の褐色の麗人はそのような姿を見せなかった。力の差が有りすぎるのが歯がゆくて仕方なかった。
幼い、子供じみた自分の意地を見透かされたような気がして白哉の目を直視出来なかった。
「私も得意ではない。卯ノ花殿の所へ行け」
「うるさい・・」
だが抵抗できず、白哉のなすがままになった砕蜂は大人しく白哉に身を預けた。
応急処置を終え、砕蜂の体を横たえさせた白哉は砕蜂の目をまっすぐに見つめて来た。気まずく、砕蜂は顔を背ける。
「なぜ手当しない?死に急ぐような事をするな」
心臓を掴まれるような感覚に息がつまった。任務をこなし邁進する事で誤魔化していた自分の心の底を見透かされたような気がしてしまった。
目標はある、自分が生きるべき道もある。そして自分を律する矜持もあり、それに従い生きるだけだ。ただ、そこに自分の喜びはあったろうか。
闘いの中で生き、それで死ねればそれでいいと思っているのではないだろうか。友に歩むことが喜びだった彼の人が失踪して以来、自分は笑うことも忘れてしまったような気がした。
「・・・・・・大した傷ではない」
「これだけ血を流して言えることか」
白哉は砕蜂の小柄な体を抱き上げた。
「放せ・・・!」
暴れる砕蜂を抑え込み、白哉は耳元で囁いた。
「これから卯ノ花殿の所へ行く。大人しくしておかねば、知らんぞ」
ぐ・・・・と砕蜂は抵抗をやめた。砕蜂と言えど、卯ノ花の怒りは怖い。おそらく強敵に出くわした時よりも、もしかしたら総隊長に叱責された時よりも。
ふいに、白哉が言った。
「生きろ」
その言葉は今まで聞いたこの男の言葉の中で砕蜂にとって最も力強く記憶に残った。


                     
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