頂き物

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初めて見た時、彼女の霊圧で体が切り裂かれるかと思った。とても澄み切った、鋭い刃のような霊圧を持つ、小さい人形のように綺麗な少女。でも表情は無表情で、漆黒の髪から垣間見える黒い瞳が何を映しているか、うかがい知ることは出来なかった。
隠密機動総司令官兼二番隊隊長・砕蜂。
檜佐木が彼女について知り得たのはただそれだけの事だった。

そんなある日、雨の中で彼女を見た。
大きな桜の木の下で、枯れたその木を見つめながら雨に打たれていた。
泣いているかもしれない・・・・
そう思ったのは直感だったのか、今でもわからない。今思えば相変わらず無表情だったし、彼女が涙を流すことなど想像も出来なかった。それでも、その横顔から悲しみの淵にいるような気がした。

それ以来、目で彼女を追うようになった。東仙についていった隊首会の時、ふとすれ違った時、いつも彼女は顔色一つ変えなかった。挨拶してみると普通に返ってくる。凛とした、澄み渡った綺麗な声だった。
自分の事など知らないと思っていたが、彼女は意外と自分の事を知っていた。把握していたという方が正しいかもしれない。職業柄、人に対する記憶力は良いのだと彼女の副官の大前田が言っていた。
家業が暗殺、そして今は刑軍の長、情報を管理する隠密機動の司令官。平和を願う東仙の下にいる自分からは彼女は色んな意味で遠い存在だった。

ある日書類を届けに彼女の執務室に行った。そこには副官の大前田と、静かに仕事をする砕蜂がいた。
「檜佐木です。書類を届けにきました」
「預かろう」
彼女の白い手が伸びてくる。その手を見てその手が少し荒れている事に、ふと檜佐木は気づいた。彼女は人形ではなかった。人形のように艶めいた手ではなく、仕事で傷んでしまったのだろう傷をたたえた、人肌を持っていた。
「砕蜂隊長」
衝動的に声をかける。
「今夜、飲み会あるんです。京楽隊長とか、日番谷隊長とか、結構隊長格の方もいらっしゃるんですが、よろしければ一緒にいかがですか」
あんぐり大前田は口を開け檜佐木を見つめ、砕蜂も目を丸くして檜佐木を見返した。
こんな表情もあるのか・・とどこか他人事にように檜佐木は思った。
「夜は・・・・確かに空いているが、いつ何があるかわからんので、酒は極力飲まないようにしている。強くないものでな。それでは皆つまらんのではないか?」
思いのほか快い返事に何故か胸が高鳴った。
「大丈夫ですよ!気にしませんし、結構現世では酒じゃない飲み物も豊富なんですよ。集めておきますから!」
「・・・・・・・・・・そうか、迷惑でないから行こう」
良い返事をもらえて内心喜ぶ檜佐木を大前田は相変わらず驚いたように見ていた。
「・・あ、大前田さんもいかがです?」
「・・・・・・・・・俺は後付かよ・・」
惚れたのか?と後ほどさんざん嫌味を言われる結果となった。
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