頂き物
□昔話
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「砕蜂、お主檜佐木と心を通わすまでに、誰かと恋仲であった事はあるのか?」
主の突然の問いかけに砕蜂は頭が真っ白になった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
猫の姿の主は喉をゴロゴロ言わせてすり寄りながら問いかけてくる。
「お主、本に美しくなったの。再会した時思ったわ。檜佐木と恋仲になったのはあの後ではないのか」
何かあったのじゃろう?と夜一は砕蜂を見つめてくる。主とのがーるずとーくは嬉しくもあるが、こうも自分を丸裸にされてしまうのには戸惑いを隠せない。
「・・・・・・・いえ・・・・・あの・・・・・・・・・・・過ぎたことで」
自分の馬鹿者。少し嘘をつけばいいだけではないか。何故か主の前では隠し事が出来ない。
昔、夜一が失踪した後、砕蜂は後釜の隠密機動総司令官に任命された。かつては自分が仕えた、輝かしい役職の栄光は最早失墜していて、罪人の称号のようだった。
謀反の前任がつけた汚名を晴らすため、躍起にならねばならない砕蜂だったが風当りは予想よりずっと強かった。
若くして重い地位についた砕蜂は確かに夜一の片腕として抜きんでた存在だったが、他隊の隊長たちに比べ、格段に若く、実力もまだ開きがあった。
また、自分の過ごした刑軍の中からも砕蜂を妬む声も聞こえてきて、内外から冷たい声を浴びせられることが続いた。
そして同時に、華奢で可憐な彼女に密かに想いを寄せる者も多く、夜一がいなくなった途端思いのタケをぶつけてくる元同僚も多かった。かつては夜一のお気に入りで庇護が強く近づきにくかったらしいが、その夜一がいなくなった事であわよくば・・と考える輩も多かったのだろう。
ひどい時は寝込みを襲われそうになったこともあった。返り討ちにしてきたが、一度危なかった時何故か黒猫が現れその男どもを引っ掻いて助かった事もある。
もともと負けん気も強く努力家な砕蜂だったが、何度も心がくじけそうになった。自分を裏切ったかつての主をいつか刑の執行人として捕える。その目標・復讐を糧に這い上がっていた。
そんな中、砕蜂が心を許した部下(元同僚)がいた。その部下は席官につき傍で砕蜂を支え続けた。その席官には安心して背中を預けられる・・・そう思っていた。