頂き物
□喧嘩
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昼休み、檜佐木は砕蜂を二番隊執務室で待っていた。外は大雨でドカドカという打ち付ける音が耳に響く。珍しく任務でもないのに砕蜂は執務室にいなかった。昼食に席を立っている彼女の副官もじき帰ってくる、とだけ言い残して出て行った。
しばらくぼんやりしていると、執務室の扉の向こうから砕蜂の怒鳴るような声が聞こえてきた。珍しい・・・相手は大前田ではなさそうで、言い合っているようだ。
ダンっと壊れるのではないかと思う勢いで砕蜂の細い足が扉を開けた。女の子がはしたない・・・と言いかけて光景に檜佐木はぎょっとする。
「放せって言ってるだろ!!」
「こんな雨のなか隊舎前で佇まれて何事かと思うだろう!迷惑だ!」
砕蜂が言い争っているのは十番隊隊長、日番谷だった。
しかも小さい(失礼)日番谷の体を砕蜂はその細い腕で抱え上げ、肩に担いでいる。
「どうしたんですか?」
驚いて声をかけると不機嫌極まりないらしい二人はギロリと檜佐木を睨んだ。
ひっ・・・・恋人の形相にちょっと後ずさる。何があったかわからないが、隊長二人の喧嘩に割って入る度胸は檜佐木にはない。
「こいつがうちの隊舎前でこの雨の中ずっと突っ立てたんだ。」
聴けば大雨にも関わらず、びしょぬれで日番谷は二番隊隊舎前に佇んでいたらしい。いつまでも入って来ない彼を見かねて門番が声をかけても入ろうとせず、たまらず砕蜂に連絡が来て、彼女が強引に担ぎ込んだ・・・ということらしい。
お陰様で日番谷はもちろん、雨の中で問答したらしい砕蜂も雨に濡れている。
当の日番谷はぶすくれたまま目を合わそうとせず、砕蜂は盛大なため息をついた。
「そこの浴室を貸してやる。温まって来い」
「・・・・・・・・・・・いらねえ」
砕蜂にしてはかなりの親切心を拗ねたように日番谷は拒んだ。砕蜂の眉間に皺が寄る。
「着替えがないか・・・」
「そういう問題じゃねえ」
砕蜂の苛立ちが高まってくる。禍々しい霊圧に檜佐木は部屋の隅まで飛ばされそうだ。砕蜂は執務室の奥から死覇装束を取り出して来た。
「着替えに使え。私のものだが、お前なら入るだろう」
ピシ・・・・・と空気が凍る。
女性の中でも小柄な砕蜂の死覇装束を、仮にも男(しかも身長にコンプレックスのある)にあっさり「お前なら入る・・・」無神経極まりない発言に檜佐木もそれはまずい・・と内心思った。確信犯なのか、イライラが頂点に達して冷静な判断が出来なくなっているのか、砕蜂は日番谷の睨みを気にも留めずそら、どうした?と促す。
「てめえ・・・・喧嘩売ってんのか」
「心外だな。うちの隊舎前で雨に打たれて項垂れていたお前を雨宿りさせてやって、冷えた体を温めるために風呂も貸してやると言っているのに、喧嘩を売っているとは随分な言いようだな」
正論だ。確かに正論だ。彼女の手の死覇装束さえなければ。
しばらくにらみ合いをしていた二人だったが、自他ともに認める短気な砕蜂は突然日番谷を担ぎ上げ、浴室に向かった。
「いい加減・・・言う事を聞け!!!!」
大声で怒鳴って日番谷を風呂に投げ込み、ピシャっと戸を閉めた。
「隊長!!」
驚いて叫ぶ檜佐木も、風呂場でわめく日番谷も華麗に無視して椅子にどかっと座った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・一体・・・何かあったんですか?日番谷隊長」
檜佐木をちらりと見ると、砕蜂は静かに話した。