頂き物

□そこにいるだけで
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「その傷、どうした」

例のごとく昼休みに顔を出した檜佐木の腕に、一筋の切り傷がついていた。
訪ねられた檜佐木は眉を寄せて後輩の阿散井との手合せで負った傷だと悔しそうに言った。

「うかうかしてられませんよ。今夜は鍛錬所に残って鍛錬してきます。だから今夜は・・」

「構わん。頑張れよ」

申し訳なさそうに言う檜佐木にあっさりと頷いてやった。戦うことが本業だ。強くなりたいと望むところを妨げることはない。


休みが終わる10分前に檜佐木は執務室を出て行った。その後ろ姿を砕蜂はぼんやりとみていた。

後輩、というのはある意味恐ろしいものだ。ひたむきな力でどんどん自分に追いついてくる。「うかうかしてられない・・」と突き上げられるように自分も鍛錬を重ねてまた上に登って行く。

尊敬できる上司・先輩も必要だが、自分が向上するためには後輩はかなり刺激になるものだ。

それにしてもあんなに悔しそうな顔をして闘争心を燃やしている檜佐木は初めて見た。やはり・・・

「男なのだな「じゃな」・・・」

「ひ!!」

完全に気を抜いていて、背後の気配に全く気付かなかった。砕蜂を驚かした張本人は悪戯が成功したように嬉しそうに笑った。

「元気にしとるか?砕蜂」

褐色の肌に黄金の瞳。自分が敬愛した主だった。

「夜一様・・・」

気配に気づけなかった悔しさと、会えた嬉しさで顔が紅潮する。

「檜佐木も何だかんだ言って男じゃな。あのように頑張っている姿はなかなか良い男ではないか」

いつの間にか砕蜂の頭を撫でながら嬉しそうに笑っている。この主の前になると砕蜂はどこか百年前の少女に戻ったような気持ちになってしまう。

「あ、あの夜一様、本日はどのようなご用件で・・?」

「お主に会いにの」

自分でも顔に熱が集まっているのがわかる。この主はいつもこうして自分をからかう。隊長にまでなった自分に対しても変わらない。

「現世の生活が長くて体が鈍ってしまってな。手合せしてくれんか?」

まっすぐな綺麗な目で砕蜂を見つめる。自分はこの瞳が好きだな、とどこか冷静に考えている砕蜂の体を昂揚感が支配してきた。

「はい、喜んで!」

午後は総隊長に出す書類を仕上げて、刑軍の指導内容を考え、上がってきた情報をまとめ再調査を精査し・・・・・などと分単位で考えていた仕事のスケジュールが一瞬で崩れ去った。

大前田の机に書類を置いて夜一の後を追って執務室を出た。


その数分後、昼休みから戻った大前田の驚愕の声が上がったのは言うまでもない。
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