異世界A
□黒い影の正体
1ページ/3ページ
今、私は檜佐木に背負われている。密着している部分が熱い。寒いわけではなかったのだが、さっきまで震えていたのが嘘のように落ち着いて、広い背中に身体を預けた。だが今度は妙にドキドキしてしまった。鎮まれ、私の心臓。
25mプールの傍にジャグジーがあるので、そこで下ろしてもらった。幸い、ほかには先客がいなかった。
「大丈夫か?」
もう一度問われたので、
「ああ。」
と答えた。いつもなら「あとは放っておいてくれ」と言うところだが、先ほどの出来事についてどうしても話しておきたかったので、
「すまんが、もう少し付き合ってくれるか?」
と言ってみた。すると奴は何を誤解したのか、みるみる真っ赤になった。
そういえば、虎徹はどうした? 辺りを見回すと、プールの入口で大きな身体を隠すようにして、こちらの様子を窺っているのが見えた。そしてこちらが気づいたことが分かると、ひらひらと手を振って、そそくさと消えた。
……。虎徹、私と檜佐木を2人きりにするつもりか? しかし、虎徹にこのような話を聞かせるわけにもいかないので、仕方がないか。