旧・拍手御礼駄文

□潮干狩り
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現世ではゴールデンウィークとかいって大型連休があるが、俺たちには関係ない。しかし、気候がよいのでどこかに遊びに行きたくなる。砕蜂隊長を誘ってみようか。

砕蜂隊長が俺の家に晩飯を食べに来ている時に声をかけてみた。

「ねえ、今度の休みにどっか遊びに行きませんか?」

「ふむ……」

生返事だが、読んでいる雑誌は現世のゴールデンウィークお出かけ特集。思わずニヤリとしてしまった。

「どっか、行きたいところあります?」

と覗きこむと、慌てて隠された。

「勝手に見るな!」

「だって、何か熱心にご覧になってるから」

「む……」

黙って雑誌の該当箇所を指差された。それは潮干狩りだった。

潮干狩り。たしかに海鮮好きの砕蜂隊長にとってはパラダイスかもしれない。という訳で、5月のとある晴れた日、俺たちは現世に潮干狩りにやってきた。

潮干狩りといっても主に採れるのは地元の漁協が撒いている養殖アサリなのだが、しばらくすると、バケツに結構な量のアサリが採れた。

今日はアウトドア志向で、近くのキャンプ場のコテージに泊まることにした。海辺だから、アサリ以外の魚介類や食材を仕入れて料理する。

コテージに着くと、

「たまには私が作ろう」

と、砕蜂隊長が言った。

「え? いいっすよ?」

と言うと、

「私の料理の腕が信用できぬか?」

と少し機嫌が悪くなったので、慌てて、

「じゃあ、お言葉に甘えますね…」

ということになった。砕蜂隊長も貴族とはいえ、刑軍に入ったばかりの頃は平隊士同様、賄いをしていたことがあるので、意外に料理はできるのだ。仕度が整うまで所在無さげにしていると、

「これでも飲んで待っておけ」

と、いつも飲んでいるのより上等な酒を渡された。料理を作る彼女を見たことが無いわけではないが、後ろ姿を眺めていると、ちょっと新婚さんにでもなったような、いい気分だ。

やがて料理のいい匂いがしてくる。夕飯の仕度ができて、俺は砕蜂隊長の料理に舌鼓を打ちながら、いつもより上等な酒を飲む。ああ、幸せ。

アサリの酒蒸し、アサリの吸い物、アサリ御飯、あとは仕入れた魚で刺身や煮付け、サザエの壷焼きなど、結構な品数だ。一口食べて、

「うん、旨い!」

と言うと、

「当たり前だ」

と返ってきた。調子に乗って、

「家に帰ったら毎日こんな御飯と砕蜂隊長が待っててくださったらな〜」

と言ったら、真っ赤な顔をして、

「阿呆。毎日こんなことやっておられるか!」

と言われた。……残念。

すっかり腹がいっぱいになって、後片付けは俺がした。あとは敷地内にある温泉施設に行き、寝るだけになった時、砕蜂隊長がぽつりと言った。

「……さっきの話だが…。べ、別に、…たまになら、構わぬぞ。ただ、私の職務上、檜佐木より早く帰れるとは限らぬしな。むしろ、貴様のほうが早く帰れるのでは…」

今度は俺が顔を赤くする番だった。

「……あの、それって…?」

「私の方が早く帰れるくらい、精進せい!」

そう言ってくるりと背を向けた砕蜂隊長の耳はほんのり赤かった。抱き締めたい衝動をかろうじて抑え、

「……がんばります…」

ヘタれな俺にはそう言うのが精一杯だった。

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