旧・拍手御礼駄文

□雛まつり2014
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今日は桃の節句だ。いつだったか、砕蜂隊長に雛人形の話を振ったら、わざわざ実家に招いてくれて見せてくれたことがあった。思えばあれがはじめて蜂家本家に招かれるきっかけとなったのだが、その後、蜂家では、雛人形をどうしているのだろう。

昼休みに、

「いつだったか見せていただいた雛人形って、あれから毎年飾っているんですかね?」

「さあな。この時期は年度末で忙しいから、なかなか実家には帰らぬしな。それがどうかしたか?」

「いや、なんか、ふと思い出して。あ、今日は桃の節句ですから、おやつに雛あられを持ってきました。小腹が空いたときにでも食べてください」

そう。砕蜂隊長は最初の頃にくらべてよく食べるようになった。霊力のある者は、尸魂界(こちら)でもよく腹が減る。今までの彼女が不思議だったのだ。

砕蜂隊長は、しげしげと雛あられを見ながら、

「そうか。今日は桃の節句か…」

と呟いた。そして弁当を平らげると、ごちそうさまをして俺に弁当箱の包みを返してくれた。

その日の夕方、俺の伝令神機が鳴った。砕蜂隊長からだった。蜂家に来い、とのことだった。彼女はいつも突然だ。慌てて手土産を用意して蜂家に向かうと、何度かお邪魔していることもあり、当初は怪訝な顔で俺を見ていた門番も、最近では満面の笑みで通してくれるようになった。

家令の李老人が静かな笑みを湛えて出迎えてくれ、玄関に入ると、砕蜂隊長がいつだったかのように振袖で迎えてくれた。

「スマンな。突然」

……一応自覚はあったようだ。

歩きながら、

「雛人形はその後どうしているかと李に伝令神機で尋ねたら、あれから毎年この時期には、虫干しも兼ねて飾っているのだそうだ。それで、今日はちょうど桃の節句だし、檜佐木を招いて夕食でもどうか、ということになってな」

「そうでしたか。ありがとうございます」

部屋に入ると、あのときの雛人形が飾ってあった。あのときは緊張もあってじっくりと見る余裕もなかったが、あらためて人形の顔を見てみると、女雛は何だか砕蜂隊長に似ている気がした。男雛は、……俺とは似ても似つかない品のよい顔だ、と思った。

だが、砕蜂隊長が、

「この人形なのだが、どうも男雛の目つきが悪い気がしてな。まるで檜佐木のようだ」

と言った。

「目つきが悪いって、ひどいっすね…」

砕蜂隊長はお構いなしに続けて、

「この五人囃子の真ん中のヤツなど、大前田に似ていないか?」

言われてみると、なぜか他の人形よりも顔が太って……、もとい、ふくよかに見える。

「たしかに、似ていなくもないですね。じゃあ、この右大臣・左大臣は…」

などと知っている人物をあてはめては、しばし楽しんでいた。

しばらくして、李老人が食事の支度ができているので、と呼びに来たので、雛人形たちに誰かを当てはめる遊びはやめにして、食堂に向かった。

料理はいつものように、蜂家に料理人が腕を振るったもので、とても美味しかった。砕蜂隊長も箸が進んでいるようだった。

帰りがけ、砕蜂隊長とは玄関のところで別れ、また門のところまで李老人が送ってくれながら、少し話をした。

「最近は砕蜂様もよく食が進むようになりまして。これも檜佐木さまのお陰にございます。何より、時々はこうして帰ってきてくださるようになりました」

「あ、いえ…。でも、たしかに一時に比べるとよく召し上がられるようになりましたよね。俺が弁当を届け始めたときには子供用の弁当箱を使ってましたけど、今では普通に大人用の弁当箱になりましたよ」

「左様にございますか。ありがとうございます」

「いや、お礼なんてとんでもない」

あとは他愛のない話をしながら門のところまでやってくると、そこで李老人にも今日のご馳走のお礼と挨拶をして、俺は蜂家を辞した。

〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

一方、檜佐木を見送った李は。

(姫様と檜佐木様は本当に仲睦まじい。まるで、雛人形の女雛と男雛のようにございますね。いつまでも仲良く、そしていつかはあのように…)

そっと心の中で呟くのであった。

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