図書館

□▽夜の中で
1ページ/2ページ


「いや、だよ……置いてかないで、こじゅうろ……。オレ、一人はいやだよぅ……。厠、ついて来て……?」

梵天丸を寝かすために、見回りに来ていた小十郎を引き留めたのは、誰でもない梵天丸本人であった。
「大丈夫です、梵天丸様。幽霊など出ません、出るとしたら……虫に猿に、猪に…もしかしたら熊も出るか…ん?」
ふと見れば、梵天丸の目には涙がたまってきている。
その瞬間、小十郎は言ってはいけないことを言ったかと後悔した。

「ぼ、梵天丸様、そんな泣きそうな顔しないでください」
「だって、虫に猿に……猪に熊……オレ、オレ…食べられちゃう…よ…!!」
「…大丈夫です、食べられることはないかと」
「…うぅっ……じゃあ…オレ……飲まれる、の……!?…」
「小十郎は、そんなつもりで言ったわけじゃ……」
この発想力はどうしたものかと、半ば感心しながら、小十郎はどうにか梵天丸を怖がらせないように考える。


「梵天丸様……」
「……ぅえ?…」
「…私が言いたかったのは、夜出るのは『私に倒せるもの』で、もしそれらが出ても私がお守りします、と、そう言いたかったのです」
小十郎の着物の端をちょこんと握り、見上げて震える梵天丸。
その姿を見て、小十郎は一瞬、胸が苦しくなるのを感じた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ