図書館

□▼酔っているのは誰か(小十郎ver)
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いつだってこの人は、大人になりたがっている子供だった。
昔から、何度、背を貸したことか、もはや、数など覚えていない。
「おっ、小十郎、見てみろよ、猫だ………」
小十郎の背中に堂々と鎮座しつつ、前を横切る黒猫を見つけると、無邪気に指をさし笑い声をあげる。
「なぁ、今の猫見たか?黒猫のくせに、目が真田幸村に似てやがる………ははっ、黒なのに」
………酒に弱いのは知っていた。
知ってはいたが、少し甘く見ていたようだ。
「追い掛けろ、小十郎」
「……………追い掛けませぬ」
「オレの言うことが聞けないのか!?」
「……はっ、酔っ払いの戯言は、私には聞こえませぬな」
「小十郎、今、おまえオレのこと鼻で笑ったろ」
「………はぁ(面倒なことになったな)」
「ため息なんてついて、年寄りみたいだぞ?」
「あー、はいはい。帰りますよ、政宗様」
「ん、よしっ、行け!屋敷は近いっ」
今までにも何度か、酔い潰れている姿は見たことがあった。
その度に、次の日に頭が痛いと文句を言うのだ。
だが、今日はどうしたことか、潰れずに、ひどく高揚している。
とりあえず、次の日のことは考えないとして、だ。
何が彼を高揚させているのか、思い出してみることにした。



酒を呑み交わした相手は、政宗様の好敵手である真田幸村だった。
なんでも、武田の大将のために修業中だとかなんとかで、地方を回っている最中らしい。
相変わらず、猿飛のやつがついていたようだが、本人は一人だと思っているようだったな。
……と、あいつらの話は関係ねぇな。
で、挨拶に来た真田を、政宗様が最高のもてなしをするということで、美味い酒を置いている店に上がり込んだ。
俺は屋敷に残っておこうかとも思ったが、酒に弱い政宗様が心配で、共に店に行くこととなった。
真田と政宗様が酒と料理を楽しんでいる間、俺は少し離れたところで、静かに料理を頂いていた。
時に二人の会話を聞いたりしていたが、あまり興味が持てる内容でもなかった。
「小十郎、たまにはおまえも一緒に酒を呑めよ」
そう政宗様が切り出した時、まだ政宗様はあまり酔っていないように思えた。
「まがりなりにも、私はあなたの家臣。あなたと同じ場で酒を呑むのは失礼になるかと……」
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