図書館

□▽小十郎と梵天丸様と、犬
1ページ/3ページ

「小十郎、こじゅと散歩に行きたい」
こじゅがここに居着いてから、早1ヶ月近くが経つ。
梵天丸が、どこかから拾ってきた犬。
尻尾をふり、愛想を振りまくこじゅに、梵天丸は喜び、すぐに打ち解けていた。
小十郎にとってもそれは同じで、否、その犬に親しみを感じるのは、梵天丸様が犬につけた名前が『こじゅ』だったためか。
どこか、放っておけなかったようだ。
そんなこんなで、この1ヶ月が経つ。
こじゅの世話は実質、小十郎が世話をしてきた。
まだ、梵天丸が犬の世話をするのは早いのではないかとの判断であったが、正直、正解であった。
こじゅと遊んでいる時の梵天丸は楽しそうではあったが、時に予期せぬ悪戯を二人(一人と一匹)で企む。
それに嵌まる小十郎ではなかったが、何度も冷や汗をかいた。
小十郎にとって、また一人、やんちゃな弟が出来たようなそんな感覚にとらわれる。
そんな毎日だった。

「今日は天気がいいですな。……こんな日は」
「小十郎、こじゅと散歩に行きたい」
それが言いたくてしょうがなかったのだろう、梵天丸は小十郎の言葉を半ば遮るようにして口にした。
その横ではこじゅが眠たそうに欠伸をしている。
「こんな天気のいい日には、外を歩くのが一番だ。な、そう言いたかったんだろ?」
笑顔を浮かべ小十郎を見上げる梵天丸。それを見て、いいえとは言いにくいものがあった。
「………たまには、共に散歩でもいたしましょうか」
「こじゅ、こじゅー、散歩に行けるぞ!!」
戯れる二人(一人と一匹)その様子を、小十郎は微笑みつつ見守っていた。
「……勉強を、というつもりだったんだが。まぁ、仕方ねぇな」
その呟きは、彼らには聞こえていなかった。

「ここ、すごいだろ!」
梵天丸が行きたい場所があるというので、こじゅと共にそこに訪れた小十郎。
「見事ですね」
そこは、一面に花が咲き誇る美しい場所であった。
こじゅは広い場所が嬉しいのか、今にも走りたそうに、綱を引っ張る。
「よくこの場所をご存知でしたね」

「まぁ、俺は……いろいろ、知ってるからな」
そう言う梵天丸はどこか挙動不審で、だが、理由をなんとなくだがわかっていた小十郎はあえてそれを追及しようとも思わなかった。
「さぁ、存分に遊びなされ」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ