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□▼共に生きた日々を、大切なあなたと
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何人、何十人斬ったか。
それなのに、まだ先は見えない。
あと何人斬れば、この戦、終わりを迎えられる……?
政宗は、足元のぬかるみを気にせず、前に前にと推し進んでいく。
ふと気がつけば、誰かが右腕を掴んで、何かを言っている。
………小十郎、か。
政宗は、いきり立っていた。
さらに前に進もうと足を一歩踏み出せば、腕を掴む手に力が込められたのを感じる。
「離せ、小十郎」
「離しません………」
政宗は、小十郎を睨みつけた。
何故止めるのか、わからなかった。



突如、小十郎の視界に人の姿がうつる。
敵か味方か………旗印はおろか装備すら見えにくい。
ただ、嫌な予感がして、握っていた政宗の腕を強く引く。
「政宗様、失礼します……」
静かにそう呟くと、左手に握っていた刀の柄で政宗の背を押し、右腕を掴む右手を引く。
政宗は姿勢を崩し、そのまま小十郎の背後に倒れかける。
「……なに…を?」
政宗を後ろへ庇うと、小十郎は左手で握っていた刀に右手を添え構える。
それを見た兵士が、何事か叫ぶと、小十郎に向かい斬り込んでくる。
それを刀で受け止めながら、小十郎は叫ぶ。

「政宗様を連れて、一時撤退しろ!」
「小十郎……!」
政宗が何かを言いたそうに小十郎の名を呼ぶ。
それを小十郎はあえて無視する。
「いいか、もう一度しか言わねぇ、引くんだ!」

近くに味方以外にもいるとわかってはいる。
わかってはいたが、今、この時をおいて撤退の合図を逃すわけにもいかなかった。
敵の兵士を斬り付けながら、小十郎は背後の政宗の様子をふと見る。
政宗は味方の兵士に促され、馬に乗る。いくらか、口悪く罵る言葉も聞こえた気もした。

「先に行っててください。すぐに追いつきますので」
そう言う小十郎は、政宗の気配を背後に感じつつも、振り向くことはしなかった。
政宗は、何も言わなかった。


小十郎は、政宗が戦場を離脱したのを確認すると、深く呼吸をした。
刀を強く握り直すと、敵の兵士達に向かい、構え直す。

「死にたいやつから来い」
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