short

□消えないで
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もっと優しくしてあげればよかったかな。

もっと、相手になってやればよかったかな。


消えるなんて思ってもなかった。



俺が勝つもんだと思ってた


あっさり、負けちまった。







最後の瞬間、俺は何時もあいつと一緒に来る廃ビルへと急いだ。

何でこんなに焦ってるんだ。何でこんなに胸が……



屋上だなんて…遠すぎる。


でも行かなきゃいけない。


行かなきゃ逝けない



ギィ、と音を立てて屋上の扉が開く。


アイツは驚いたように振り向く。



「何、泣いてんだよ……」


アイツは走って俺の方に来た


俺は足が動かなくなってその場に砂みてぇに崩れ落ちた。


「カイ!」

「ハハッ、何て顔してんだよ……」


アイツは唇を噛み締めて俺の頭を叩きやがった。


「何すんだ馬鹿…」

「何で死んじゃうの馬鹿!!」

「知らねぇよ……」

俺は目を閉じて逝く準備をした



「まって、行かないでよぉ…独りにしないでっ…馬鹿!」

「ばかばかうっさい。………仕方ねぇだろ?負けちまったんだから…」

「なら………私も逝く。」


何言い出すんだコイツは…!

屋上から飛び降りようと走り出したアイツを追う。間に合え、間に合え





俺はギリギリのところでアイツの腕を掴んで引き寄せた


俺の体は元に戻っていた



「え……」

「人の、記憶が、俺を作ってんだろ?多分。」


アイツは、炉威は涙を湛えて俺を見上げた


「やり直そうか。一から。」


自然とそういう言葉が出てきた。

そして自然と炉威を抱き締める腕に力が入った。




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